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TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

難民に英語を教える その3 給与明細の読み方と税金

アメリカに難民として入国した大人が対象の英語レッスン。この日の中級クラスの参加者は4人。まずは紙を折ってネームタグを作ってもらい、各自の席に置いてもらった。イントロダクションとして、今回初参加の私が自己紹介スピーチをし、それに基づいた質問を3つ用意しリスニングチェックを行う…予定だった。

いつも教えている先生は、「生徒は私の英語に慣れてしまっているので、初めて会う人の英語を聞くのはとても良い練習になる」と言ってくれた。そこで、できるだけ平易な英語を用い、発音等にもいつも以上に気をつけ、一人一人の生徒の顔を見ながらゆっくりと日本と私のことを話した。

去年教えていたPEDAL@GSEの生徒たちと異なり、スピーチで間をとるたびに質問が飛んでくる。それがこの英語のクラスの雰囲気なのだろう。日本から来たと話した途端に、「アニメは何が好きですか」「地震大丈夫でしたか」「道徳の時間が学校であるんでしょ」「失礼な質問かもしれないけど、日本人と韓国人と中国人の見分けはどうやってつけているの」と矢継ぎ早の質問。

アメリカでは「質問をしない人はその場にいないのと同じ」と言われるほど、質問をしアクティブにエンゲージすることが重視される。それにしても、この生徒たちはアメリカに入国して3日とかである。この好奇心たるや。

中には「日本には信号がないんでしょ?信号がなくても平気なくらいに、人と社会の仕組みが整っている」と言ってきた人もいた。

東日本大震災の際に電線が切れ、停電し、信号が点かない交差点で警察官もそこにはおらず、歩行者が互いに協力しながら交差点を渡った話を生徒たちに話したが、日本のイメージは面白いくらいに「きちんとした日本人」である。

 

生徒のスピーキング能力は4人とも高い。時に "Japan is an iceland, isn't it?" などと尋ねられ、「アイスランド?どういうこと?」と思うとどうやら iceland アイスランドではなく island アイランドと言いたかった模様で、そのような勘違いはあるにはあるが、よどみなく英語が出てくるレベルである。自国で専門職に就いていた人もいる。

 

イントロダクションの後には通常のレッスン。今日のテーマは Jobs と Paycheck である。前半はテキストの絵を用いながら、job responsibilities についてディスカッションする。例えば、「タイムカードを押す」「制服を着用する」「チームで協力する」「手を洗う」などの行動と、職種や仕事内容をマッチングし、ディスカッションする。language target は Do we have to...? や Am I allowed to...? で、そこから発展させ What am I allowed to wear? などの表現に繋げていく。

生徒は概してスピーキング力は高いがライティング力はそこまで高くない。4人が正確に書けるよう、一人一人を見て回る。

後半は Paycheck の読み方である。paydate, pay period, rate of pay, total gross pay, total deductions, net pay などがそれぞれ何を意味するのか、生徒に質問しインタラクションを交えながら説明する。

税金の種類も複数ある。Federal Tax, State Tax, City Tax それぞれを説明する。さらに、アメリカで Big 4 と呼ばれる benefits の説明もする。health insurance, transportation, sick & vacation days, retirement がそれにあたるのだが、そこから質問がありさらに social security の話、さらにはメディケアとメディケイドの違いについても話が及ぶ。生徒の食いつきが明らかに前半と異なる。生きていくために必要な内容なので必死だ。

 

アメリカに住んでいても私はただの留学生、保険については詳しくない。でも生徒にとっては自分の給与や保険は非常に大きな関心事だ。英語を教える者として「詳しくないから教えられない」と言っていられない。

PEDAL@GSE で教えていた時にも感じたことだが、アメリカで英語を学ぶ大人の目的は、生きていくために必要な道具を手に入れることなのだ。

英語が話せなければ、書けなければ、「英語を話す必要も書く必要もない仕事」しか選べないのだ。特に自国で専門職として働いていた人にとっては、英語次第で自分の専門を生かせるかどうかが決まる。

 

この機関には、毎週新たな生徒が入ってくると同時に、毎週誰かが来なくなる。アメリカで仕事を見つけて働き始めたら、昼間に行われるこのレッスンには来られなくなるのだ。

生徒が無事に仕事を見つけることができるのはとても喜ばしいことで、自立への一歩を踏み出す手助けが少しできたかなと思うのだが、問題は山積している。

その仕事は十分暮らしていけるだけの給与なのか。入国して数週間から数ヶ月で仕事を見つけるため英語力が十分でないまま得た仕事なので、一日中誰とも英語を話さない仕事のこともある。そして数年後、転職や給与アップを望んでも英語力は入国時のままのこともある。

 

この機関は移民や難民がいつでもアクセスできるコミュニティ形成の役割も担っているのだが、資金やヒューマンリソース等、抱える問題は複雑だ。

フィラデルフィアは公立図書館で無料の英語レッスンを開催したり、料理教室兼英語レッスンにしてアクセスしやすくしたり、子どもの宿題を手助けしてくれるオンラインサービスが毎日夜11時まで提供されていたりと、市からのサービスも手厚い。しかし実態は、ボランティア頼りの面もある。無料英語レッスンの先生は私のような学生が多いし、宿題サポートサービスもボランティアによる。

 

助け合って暮らす尊さと難しさ、生活と仕事のための英語習得とそれに伴う矛盾。そんなことを感じたレッスンであった。

 

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難民に英語を教える その2 生きるための英語リテラシー

オープンスペースでの英語レッスン、今回の中級クラスの参加者は4人。全員が難民としてアメリカに入国した人だ。具体的な国名は控えるが、中東出身者が多かった。

私は中級クラスを担当したため英語のレベルは高いという共通点はあるものの、参加者のバックグラウンドはさまざまだ。つい数日前にアメリカに入国したばかりの人から数ヶ月前に入国した人、年齢層についても30代からかなりの年配まで幅広い。経歴も、自国では大学卒業後に専門職に就いていた人もいれば、自国でほとんど教育らしいものを受けたことがないという人もいる。中にはにっこり笑って、「戦争から逃げてきたの」と言う人もいて、返答に詰まる。

アメリカのコミュニティーベースの機関で大人に英語を教えると、はっとすることが多くある。教育を受けることが当たり前ではないのだ。

女性の中には、一度も学校というものに通ったことがないという人も多くいる。鉛筆を握ったこともなければ、「教科書」という概念がないため textbook という語が通じない。ましてや workbook などなおさらだ。紛らわしい2冊の本を識別するためにはgreen book や yellow book などと色で呼んだりしなければならない。

 

大人の識字教育の論文を読んでいたところ、第二言語としての英語を学ぶ学習者のリテラシーは3つのカテゴリーに分かれるそうだ。

pre-literateとは、自分の属す文化において書き言葉が存在しない学習者のこと。

non-literateとは、自分の属す文化において書き言葉はあるものの、それを習得していない学習者のこと。

semi-literateとは、自分の属す文化において書き言葉の存在と、それが意味をもつことを知ってはいるものの、書き言葉を完全には習得していない学習者のこと。

 

アメリカで移民や難民の大人が英語を学ぶのは、生きていくためだ。できるだけ早く仕事を得て生活基盤を築けるように。最初の仕事を得た後は、より給与の高い仕事にステップアップできるように。

 

今回、この機関を訪れ、参加者が一文字一文字を慈しむように、ゆっくり英語を書く姿がとても印象的だった。社会保障番号の申請のためにも、難民申請の手続き書類のためにも、仕事を得るためにも、とにかく英語を話し、書けないといけないのだ。

アメリカでは、ビザや税金申告や社会保障番号申請書類など、あらゆる書類の名前がアルファベットと数字でできている。フォーム2848 とか W-4 とか I-94 とか W-9S とか I-9 とか紛らわしい。いつも、なんでこんなに意味不明な数字とアルファベットの組み合わせなのだ、普通に◯◯申告書でいいじゃないか、と思っていたのだが、もしかしたらこれは、ある意味言語のユニバーサルデザインなのかもしれない。移民国家であるため、どんなバックグラウンドの人にも一目で判別できるような名前にしているのかもしれない。

 

次回こそ、授業内容について書こうと思う。現在学期末であらゆる課題に追われまくり、毎日何かしらの締切やグループプロジェクトのミーティングがあり、ちょっと自分が何をしているのかよくわからなくなってきたが、乗り切りたい。

 

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難民に英語を教える その1 オープンスペースで教える理由

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先日、フィラデルフィアで暮らす難民に英語を教える機会を得た。フィラデルフィアは以前からバイリンガル教育のパイオニアの役割を担ってきたことに加え、聖域都市(サンクチュアリシティ)でもある。市内には数多くのコミュニティーベースの英語教育機関があり、図書館でも無料の英語レッスンを開催している。移民や難民への大統領令のこともあり、とてもセンシティブな時期であるが、市内では毎日のように、難民支援のプログラムがそこかしこで行われている。

参考記事

移民教育タウンミーティングと、サンクチュアリーシティ(聖域都市)に対する大統領令について - TESOL@ペンシルベニア大学

 

訪問した機関の名称はここで紹介するのは控えるが、そこの方針はどちらかというとカジュアルである。教室ではなく広いオープンスペースに長机を置き、その日の参加者の数やアクティビティの内容に応じて机や椅子をセッティングし、初級クラスと中級クラスが同じオープンスペースの離れた場所でそれぞれの活動を行っていた。

オープンスペースなのには理由がある。子連れでこの英語レッスンに通う人も多いため、オープンスペースで遊ばせておけば目が届く。その日も7人ほど、3歳から7歳の子ども達が楽しそうな笑い声をあげながら遊び、走り回り、時にはレッスン中の親の元に駆け寄り、甘える。夫婦で参加し、クラスが別でも同じ空間にいることで子どもは両親どちらの顔も見ることができる。

さらに、難民の中には人身取引や虐待などの被害を受け心的トラウマを抱える人もいるため、狭く閉ざされた空間を避ける意図もある。

また、初級クラスでは初めて英語を学ぶ人が多いため、母語の使用が効果的だが、彼らの母語はフランス語、スペイン語、アラビア語とさまざまだ。インストラクター1人では対応できない。そこで、中級クラスのインストラクターや参加者を含め、このレッスンに参加しているすべての人を言語的リソースとし、時にクラスを行き来しながら英語を学ぶのだ。

オープンスペースでのレッスンはとても温かい雰囲気だ。次回、授業内容について書きたいと思う。

 

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