TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

フルブライトエンリッチメントセミナー その2 1〜2日目

4泊5日で行われたフルブライトエンリッチメントセミナーには、50か国から90人のフルブライターが参加した。

テーマは "Educational Justice"「教育における正義」ということで、DCにあるジョージワシントン大学で開催された。

ハワイやカリフォルニアの大学院に通う人たちは飛行機での参加でアメリカ横断といった様子なのに、私はといえばフィラデルフィアからアムトラックで2時間の移動。近所でちょっぴり残念…と思いつつ、日本に置き換えれば東京−浜松くらいの距離なので、近所というほど近所でもない。しかしアメリカに住んでいるとなんだかとても近い気がする。NYに至ってはとても近所の感覚で、時期によっては往復5ドルや10ドルでフラっと遊びに行ける感覚だが、距離にすると東京−日光くらいのようだ。

 

1日目。夕方までにチェックインしたらよいのだがそこは近所というアドバンテージを活かし、お昼前に到着。夕方までたっぷり時間があるので、ナショナルモールへ行き、リンカーンに会い、ワシントンモニュメントまでひたすら歩く。

f:id:upenntesolfulbright:20170619084007j:plain

 

f:id:upenntesolfulbright:20170619084034j:plain

f:id:upenntesolfulbright:20170619213005j:plain

f:id:upenntesolfulbright:20170619084105j:plain

 

夕方にチェックインすると、部屋にはルームメイトのスーダン人の女性。フルブライトのセミナーでは、必ず2人1部屋だ。8月のオリエンテーションではインドネシア人の女性と5日間共に過ごした。

ルームメイトの彼女は、スーダンからvisiting researcherとしてアメリカ中西部の大学院に所属している。彼女の専攻は女性の権利と教育で、スーダンではそれらを推進する機関で働いているそうだ。会うなり質問攻めにしてしまった私に、嫌な顔一つせずに丁寧に答えてくれる彼女は、聡明で言葉の一つ一つがとても落ち着いており、経験と知識に裏付けられた力強い言葉と態度が印象的で、数分話しただけですっかり感動してしまった。世界にはこんなにすごい人がいるんだなあと感じ入った。

 

2台のバスに分乗してレセプション会場へ。ジョージワシントン大学の所有するとても素敵なPost Hallにてオープニングレセプションとディナー。

Post Hall | Mount Vernon Campus Events | The George Washington University

50か国からの参加者と話しながら、自分の、世界のさまざまな国や地域への知識があまりにも乏しいことに自己嫌悪気味になりつつ、食事するのも忘れてひたすらしゃべりまくる。

8月にあった、マイアミのオリエンテーションで出会ったカンボジア人の院生と南アフリカ共和国の院生と8か月ぶりの再会を喜び合った。

ホテルへ戻り、有志20人ほどでクラブへ。ビリヤードのある奥の部屋を貸切状態にしてもらい(大勢だから隔離された模様)、ビール片手に踊り、歌い、語る、というか叫ばないと聞こえない。ラテンアメリカ出身勢がラテンミュージックをリクエストし続け、ラテンダンス講座が始まる。若者パワーに圧倒されつつ、ラティーノ、ラティーナたちのリードの元、皆でラテンダンスで盛り上がる。皆より年長の私は、初日にしてちょっとくたびれる。

 

2日目。

午前中はジョージワシントン大学の教育学大学院の学長の講演とディスカッション。

ランチは専門分野ごとのグループに分かれ、自分の考える教育と正義についてディスカッションしながら食事をすませる。

午後は2年目のフルブライターたちを招き、研究内容のポスターセッション。

その後、国会議事堂に移動しキャピトルツアー。

f:id:upenntesolfulbright:20170619212623j:plain

 

ローザパークスにも会えた。他の人物が立像であるのに対し、彼女だけはバスで白人優先席から立ち上がらなかった時と同様に「座り続けて」いる。

f:id:upenntesolfulbright:20170619212655j:plain

 

大雨で震えながらの移動となったが、終了後のレセプションでは虹が出ていた。

f:id:upenntesolfulbright:20170619084140j:plain

 

終了後、夜はマイアミのオリエンテーションで出会った、タイ出身の医師で、ジョージタウン大学で法律を学ぶ院生が遊びに来てくれて、一緒にタイ料理を食べに行った。アメリカ各地に仲間がいる安心感。みんな頑張っているんだな、と感じることができた。

 

にほんブログ村 海外生活ブログ 海外留学(アメリカ・カナダ)へ
にほんブログ村

 


アメリカランキング

 

フルブライトエンリッチメントセミナー その1 概要

f:id:upenntesolfulbright:20170618021148j:plain

フルブライト奨学生に採用されると、大学院の授業料や月々の生活費等の給付といった財政的援助のほか、さまざまなネットワークの機会も与えられる。私の場合は、ペンシルベニア大学へ入学する直前の8月に、マイアミで5日間のゲートウェイオリエンテーションへの参加、そして4月にはワシントンDCで5日間のエンリッチメントセミナーへ参加する機会をいただいた。

もう2か月以上前の話になってしまったが、エンリッチメントセミナーの様子を記しておこうと思う。つい先日、今年度のフルブライト奨学生のアメリカ大使公邸への訪問の写真をfacebookで見かけ、あれから1年か、と懐かしくなり、フルブライトのことについて書いてみたくなったのだ。

 

私も1年前の今頃、キャロライン・ケネディ大使(当時)と大使公邸でお会いした際に、私の研究内容について耳を傾けて励ましてくださったことがとても嬉しかった。その後他のフルブライト奨学生たちと食事しに行き、平日にも関わらず遅くまで語り合った際、奨学生たちの優秀さ、寛容さ、傾聴力、視野の広さ、その道のプロとしての誇り、明るく前向きな態度と言葉に心底驚嘆した。多分私が最年長で、私は自分の研究というよりも、これからの若者の知的思考力、協働力、創造力を高めるために英語教育という側面からどのようにアプローチしたらよいかをいつも考えていた。そんな私の目の前にズラリと並ぶ、キラキラと眩しい若者のロールモデルたち。自分の教える生徒たちの10年後の姿と重ね合わせた。

 

8月のゲートウェイオリエンテーションでは、40か国から70人、4月のエンリッチメントセミナーでは50か国から90人の参加者と共に時を過ごした。全世界から集まるフルブライターは、やはりプラスのエネルギーに満ちあふれていた。

さらに言うと、「国の誇りと責任を持って、自分の国をどうにかするために学びに来た」という使命感をもって来ている人が多いように感じた。日本のフルブライト大学院留学プログラムでは20人ほどの奨学生がいるが、国によっては毎年1〜2名のところもあるようだ。

ちなみに先日の報道によると、アメリカのフルブライト奨学金への予算を47%削減する案が発表されたそうだ。トランプ大統領になってからの移民政策や留学生へのビザ発行など心配してきたが、やはりというか、ついにフルブライト予算もかという気持ちだ。

 

www.washingtonpost.com

www.washingtonpost.com

 

ゲートウェイオリエンテーションでは、参加者の専攻はバラバラで、職業も大学院生もいれば、休職または退職してきた、各国の弁護士や建築士や行政官や医師やエンジニアなどバラバラであった。唯一の共通点は、70人ほぼ全員が東海岸の大学院に進学ということだった。これは、オリエンテーションがマイアミで行われたことと関係しているものと思われる。アメリカ各地で異なる日程及び日数でオリエンテーションが行われていた。中には数週間にわたるオリエンテーションだった人もいるようだ。費用はフルブライトが全額出してくれる。

これに対しエンリッチメントセミナーでは、テーマを選択できる。政治経済、テクノロジー、教育など、自分の研究や関心に沿って選択する。私は迷わず "Educational Justice"「教育における正義」を選択し、セミナー会場はワシントンDCのジョージワシントン大学と指定された。

その結果、当然のことだが、参加者は全員教育分野のフルブライターだ。私のように元英語教員で休職あるいは退職して大学院生になった人もいれば、言語学や言語教育学の大学院生、公共政策学の大学院生、教育行政官、教育普及のための機関を自ら立ち上げた人もいた。

例えば私が5日間共に過ごしたルームメイトはスーダン人で、彼女はスーダンの女性の権利や女子教育に関する機関で働いている。初日から一緒にクラブに踊りに行った女性はナミビア人で、彼女はナミビアに国立大学が1つしかなく教育の機会が乏しいことから、高校卒業後の、教育とテクノロジー職業訓練の両方を提供する機関を立ち上げようとしている。多彩な顔ぶれの中、教育の不平等や女子教育、言語習得、教育行政等について5日間たっぷり語り合った。

 

にほんブログ村 海外生活ブログ 海外留学(アメリカ・カナダ)へ
にほんブログ村


アメリカランキング

 

アメリカで英語を教える(番外編2)sarcasmの使い方

春学期の大学院授業の課題の一つとして、再度PEDAL@GSEで英語を教える機会を得た。

PEDAL@GSE - PEDAL@GSE Classes

今回のテーマは「ユーモア」ということで、アメリカのユーモアの理解と、それを実際に使ってみるというのが大きな流れだ。

ユーモアといってもいろいろだ。いわゆるアメリカンジョーク、ダジャレや言葉遊びの pun、皮肉とよく訳される sarcasm など、幅が広い。人種やエスニシティ、ジェンダー、宗教等に関わるセンシティブな表現も多い。大学院の授業では、それらと言語教育や異文化理解、多文化共生とどう繋げていくのかを学びながら、最後のグループプロジェクトとして30分間の授業を行った。

 

大学院の最初の授業で、「最後のグループプロジェクトはユーモアを教える授業をやってもらいます」と教授に言われ、まず最初に頭に浮かんだ疑問が「ユーモアって教えられるの…?」だった。そしてその後に、「どうやって、何を教えるの…??」と思った。アメリカのユーモアを教えるというのは全く新しい発想だし、未知のフィールドだった。

 

今回の対象クラスは中級クラス。3人グループで30分間教えるが、私たちの前に教えるもう一つの3人グループと相談し、2つのグループで60分間の授業にした。前半は「sarcasm を知る」、後半の私たちは「sarcasm を使う」をテーマとした。

 

ユーモアを含む表現は日常生活でも多用するし、映画やテレビドラマのセリフでしょっちゅう出てくるが、特に sarcasm は欧米出身でない人にはわかりづらいものだろうと思う。そんなわけで、今回の中級クラスの授業のテーマを sarcasm と設定した。

最上級クラスでは、雑誌 The New Yorker の1コママンガのキャプションを作る、というユーモアの授業にしたそうで、レベルの高さに驚いた。

 

前半の30分間の「sarcasmを知る」は次の流れで行われた。

 1.フレンズの映像を用い、sarcasm を使う際にどのような表現とシグナルが用いられるかをディスカッションする。その映像内では、実際の状況と反対の表現、大げさなイントネーション、視線、ウインクなどが用いられ、生徒同士で気づいたことを話し合ってもらった。

2.sarcasm をこれまでに使ったことがあるか、または使われているのを聞いたことがあるかをペアでディスカッションする。終了後全体で共有する。言葉での sarcasm のほか、「好ましくない状況が起きた時のゆっくりした拍手」など、言葉以外の sarcasm も共有された。

3.ファシリテーターが sarcasm の説明をし、モデルを示す。大げさなイントネーション、逆に平坦なイントネーション、スピードの変化、目の動きをモデリングする。

4.シンプソンズの映像を用い、sarcasm がどのように用いられているか、どのような表現を使っていたか、表情やジェスチャー等、気づいたことをディスカッションする。

5.映画やTVドラマから短い映像を3本見せ、スクリプトをヒントとして読みながら、その場面でどのような sarcasm が用いられていたかディスカッションする。

 

前半グループから交代し、私たちの30分間の「sarcasmを使う」は以下の流れで行った。

1.パワーポイントを用い、6種類の異なる状況を示し、どの状況で sarcasm を使うのが適切かディスカッションする。6種類の状況は、葬儀、上司との面談、友人同士での会合等。sarcasm が許される場所、人間関係、状況について説明する。

2.生徒の母国で sarcasm を使うのはよくあることかどうかペアでディスカッションし、その後全体で共有する。常に使うと答えたヨーロッパ出身の生徒もいれば、冗談にしても皮肉めいた表現をしたくない、と答えたアジア出身の生徒もいた。

3.パワーポイントを用いながら、sarcasm を使う際の3つのよくある表情を示す。smirk and side eyes(ニヤリとした皮肉めいた笑顔で、片側の口角だけ上げ、横目で見る)、eye rolls(眼球を上に動かし白目をむく感じ)、raising eyebrows(眉を上げる)を紹介し、練習する。

4.前半30分間の授業で示した、声の変化を練習する。特にイントネーションとスピードに留意しながら、"Yeah, great!" "Fantastic!" などを、大げさに言ったり反対に平坦に言ったりする練習をする。さらに、3で示した表情をつけながら練習する。

5.sarcasm を sarcasm らしくする2つの方法を示す。ここでは、「OhやWow 等のinterjectionの使用」「reallyやabsolutelyなどの強い副詞や形容詞」を紹介し、"Oh, that's REALLY nice." 等を表情と声の変化を加え練習する。

6.sarcasm を使うのにふさわしい、よくある状況を2つ説明する。「誰かが何かまずいことをした時」「誰かが何か当たり前のことを言った時」を紹介し、状況をパワーポイントで示した後、どのような sarcastic expression を言うかペアで話す。

7.教室の5か所に5つの大きな紙をあらかじめ張っておく。それぞれの紙には、異なる状況が書かれている。生徒を5つのグループに分け、各グループはそれぞれ紙の前に移動する。生徒は紙に書かれている状況のシナリオを読み、その状況に対応する sarcasm を含んだセリフをグループで話し合い、紙に書き込む。終了後、各グループは時計回りに移動し、別のシナリオに関して同様のことを行う。5回繰り返し、すべての生徒がすべてのシナリオに対し sarcasm を含むセリフを書き込む。終了後、各グループに発表してもらう。

 

今回は大学院の授業の一環として飛び込みで行った授業であったため、相手は初対面の生徒だ。初めて出会う生徒相手にeye rollsを実演して白目をむき、ユーモアを教えるのは本当に気まずかった。 生徒にしてみても、「誰この人?」と思う相手にいきなりユーモアなど教えられて困っただろう。

生徒の出身地域はさまざまで、文化も考え方もその人によって異なり、そもそも sarcasm を使いたいかどうかも人によって異なる。sarcasm を使うことによって深刻な雰囲気を緩和したり、友情や仲間意識を高めたりする効果があるため、ユーモアを会話に組み込むことによる利点をもっと強調したらよかったと思う。

 

にほんブログ村 海外生活ブログ 海外留学(アメリカ・カナダ)へ
にほんブログ村

 


アメリカランキング