TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

Spring Term 大学院授業の振り返り2 第二言語発達

秋学期に履修した3つの必修科目に加え、春学期にさらに2つの必修科目を履修した。Second Language Developmentは、TESOL専攻の最後の必修科目だ。

第二言語習得、Second Language Acquisitionと呼ぶ方が一般的なようだが、ペンシルベニア大学ではSecond Language Developmentという考え方の立場のようだ。

この授業では講義やディスカッションのほか、毎回グループプレゼンテーションが行われた。課された論文をまとめ、2〜3人グループでプレゼンテーションを行った後、それに関わるディスカッションのための質問を2つ用意する。そしてクラス全体(20人ほど)でのディスカッションの運営とまとめを行う。

 

Week 1. 言語習得、言語発達とは何か
論文1本。第二言語習得second language acquisitionと第二言語発達second language developmentの違いについて議論。言語習得を表すイメージを図として描き、グループプレゼンテーションを行った。

Week 2. 母語習得
論文3本。母語の習得メカニズムとプロセスについて議論。

 

Week 3. バイリンガリズムとマルチリンガリズム
論文4本。バイリンガル、マルチリンガルの定義とその言語習得メカニズムについて議論。

 

Week 4. 言語習得における年齢
論文7本。言語習得の重要な要因の一つである年齢について議論。臨界期はあるのか、いつなのか、大人が言語学習を始める際のヒントなど。

 

Week 5. 言語間の影響
論文3本。第二言語の習得における、母語の影響と、その逆である第二言語の母語への影響について、表面上の言語習得結果への影響と、概念レベルでの影響について議論。

 

Week 6. 言語環境
論文2本。第二言語習得の重要な要因の一つである言語環境について議論。

 

Week 7. 学習者の言語発達
論文4本。第二言語習得の過程で起こるとされるinterlanguage, fossilization, multicompetenceについて議論。

 

Week 8. 学習戦略と資質
論文3本。第二言語習得に適している資質の有無と学習戦略について議論。

 

Week 9. モティベーション
論文3本。第二言語習得の重要な要因の一つであるモティベーションについて議論。

 

Week 10. 個人差と言語習得
論文3本。言語習得における個人差の有無とその要因について議論。

 

Week 11. 社会要因
論文6本。言語習得の認知メカニズム、社会要因などを社会言語学的立場から議論。主にsocializationやconversation analysisから分析。

 

Week 12. リンガフランカとしての英語
論文4本。リンガフランカとして英語を見た場合、その概念を実際の教室でどのように活用するか、教材にどのように組み込むか議論。

 

Week 13. sociocultural theorysocial identity theory
論文4本。第二言語習得とアイデンティティ、社会文化的理論との融合について議論。

 

Week 14. complexity theory
論文3本。複雑性理論から第二言語習得を分析、議論。

 

Week 15. リサーチメソッド
論文3本。第二言語習得の分野での研究手法とリサーチプロポーザルについて、それぞれのテーマで議論。

  

その他の課題

1.リーディングレスポンス(毎回)
毎週、授業の2日前までに課題論文を読み、発展的なレスポンスをオンライン掲示板に提出。授業前日までにクラスメートのレスポンスを読み、オンライン掲示板にコメントを書き込む。

 

2.言語学習分析レポート
第7週に提出。自分の第二言語学習や第三言語学習の経験について分析しレポートを書く。

 

3.プレゼンテーションとディスカッションのまとめ
私は第5週に担当。グループで課題論文を要約しプレゼンテーションを行う。さらにそのテーマに沿ったディスカッションのための質問を用意し、クラス全体のディスカッションを運営する。私は言語間影響、特に時間軸の概念化の相互影響と認知メカニズムについて発表した。

 

4.言語習得の研究プロポーザル
最終週に提出。言語習得に関して自分でテーマを設定し、リサーチプロポーザルまたはティーチングプロポーザルとして提出。私は、昨年度から始まった都立高校の英語の授業におけるオンライン英会話の導入のもたらす影響についてリサーチプロポーザルを書き、提出した。

 

 

成績はAをいただいた。TESOLを専攻し、実践的な英語教授法を学ぶだけではなく、言語教育の根幹となる言語習得の理論についてきっちり学ぶことができ、とても勉強になった。そしてその理論だけではなく、理論をどのように現場に生かすかを常に話し合い、フィールドワークで実践し、授業内ディスカッションで議論し合ったり指導案を組み立てたりできたのが有意義だった。

教員として働いていると、経験と勘と生徒の反応とで、何が効果的でどのように改善したら良いのかが何となくわかるものだ。しかし、さまざまな研究者によって明らかにされた第一言語習得のプロセスと、第二言語習得との違いと、第二言語学習に効果的な手法とその背景にある理論を学ぶことで、自分の授業内での活動をもっと意義あるものにできそうだと思った。

 

 

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Spring Term 大学院授業の振り返り1 教育における社会言語学

ペンシルベニア大学のTESOL専攻では修了までに12講座を履修する。春学期は4講座履修した。うち2つは必修科目であり、あとの2つは選択科目である。

必修科目の一つであるSociolinguistics in Education教育における社会言語学について振り返ろうと思う。

Week 1. 社会言語学とは何か

論文1本。社会言語学の考え方と理論のイントロダクションを行った。言語の枠組みについてグループでディスカッションののち、word webをグループで作成しプレゼンテーションを行った。

Week 2. スピーチコミュニティとは何か

論文4本、ビデオ1本。variationist, ethnographic, interactionalの3つのアプローチを基に、スピーチコミュニティを分析。HymesのSPEAKINGモデルをベースに、Setting, Participants, Ends, Act sequences, Key, Instrumentalities, Norms, Genreのそれぞれについて事例と経験を分析しグループで発表した。

Week 3. language socializationとは何か

論文4本、ビデオ1本。言語習得と言語社会化との区別をし、社会やコミュニティにおける言語獲得のメカニズムと要因について分析、ディスカッションした。Sociolinguistics Self-analysis提出。

Week 4. repertoire approachとは何か

論文5本、ビデオ1本。Rymesの論文から、repertoire approachを社会言語学の枠組みに当てはめ、crosstalkやcomembershipが生まれる条件や事例について議論した。

Week 5. 言語イデオロギーと歴史

論文4本、ビデオ1本。Native Speakerの概念、language governmentalityの概念について議論。社会制度や階層、使用言語から生まれるイデオロギーや社会構造について議論した。フィールドレポートその1提出。

Week 6. 言語イデオロギーと言語活動の関係

論文4本、ビデオ1本。さまざまなenregistermentを認め、prescriptivismを批判する立場から、vocal fryやChinglishの生まれる社会要因と結果と分析し議論した。

Week 7. 言語とアイデンティティ

論文4本、ビデオ1本。variationist, ethnographic, interactionalそれぞれの立場から見た言語とアイデンティティの関係を分析し議論。ネイション・ステートの考え方が言語学習にどのような影響を及ぼしているか議論。クィア理論、ゲイのアイデンティティと言語学習についても議論した。フィールドレポートその2提出。

Week 8. 言語的コンタクトゾーン

論文6本、ビデオ1本。translanguagingとコンタクトゾーンについて議論。

Week 9. 言語的コンタクトゾーンにおける表現

論文4本、ビデオ2本。envoicing, recontextualization, interactional, entextualizationの4つのtranslanguagingの手法を分析し議論。フィールドレポートその3提出。

Week 10. translanguagingを言語教育にどう生かすか

論文6本、ビデオ1本。生徒の言語活動の発展及び教員の指導法向上のためにtranslanguagingをどのように教室に活用するかを議論。

Week 11. language architecture

論文5本、ビデオ1本。生徒をlanguage architectureに育てるための準備と具体的な手法とその理論について議論した。translingual projectのドラフト提出。

Week 12. critical literacy

論文5本、ビデオ1本。生徒のcritical literacyを高めるためにどのように授業を運営するか議論。カンファレンスプロポーザル提出。

Week 13. reflection

これまでに学んだ社会言語学に関する概念と理論を総括し議論。translingual project提出。

Week 14. ポスター発表

カンファレンスプロポーザルをポスターとしてまとめ、出力し、ポスタープレゼンテーションを行った。

 

その他の課題

1.社会言語学自己分析

自分の言語習得および言語学習の経験について、variationist, ethnographic, interactionalの3つの観点から自己分析しレポートとして提出。

2.社会言語学フィールドレポート(3回)

授業やディスカッション、会話など言語活動の場を少なくとも3回観察、録音し、それらをアイデンティティ、governmentality, comembership, socializationなどといった社会言語学の基本概念から分析しレポートを提出。

3.カンファレンスプロポーザルとポスタープレゼンテーション

上記2のフィールドレポートを基に、自分の観察した言語活動の場で発生したことを社会言語学的に分析し、学会発表へのプロポーザルと同じ書式でプロポーザルを提出。さらにそれを基にポスター発表用のポスターを作成しプレゼンテーションを行った。

4.translingual project

自分の言語習得や言語獲得プロセスをテーマとしてtranslanguaingを用いたプロジェクトを作成。絵本、ポッドキャスト、映像、小説等書式は自由。私はパワーポイントのアニメーションを用いながら日本の短歌と英語による短歌を組み合わせた、言語習得とアイデンティティに関するプロジェクトを発表した。

5.最終プロジェクト

グループで、社会言語学の概念を組み入れた授業案と教材を作成し、その関連する理論や概念とどう繋がるかも含めレポートとして提出。私たちのグループは、プラグマティクス、language architect、socialization、アイデンティティを柱とした授業案を3つ作成した。3つの授業のテーマはsmall talk (language architect)、refusal strategies(identity and socialization)、compliment and microaggression(解釈の基準)とし、それぞれ授業案と教材を作成した。

 

 

正直に言うと、この授業は抽象度が高く苦労した。長年教員として勤めてきたため、理論そのものよりも、その理論をどのように実践に生かすかプラクティカルな方面に関心が向いてしまうのだ。

じっくりと社会言語学の理論を学べたのは大変に貴重な機会だったのだが、常に「英語の授業で実際これをどう活用するの?」「日本の高校で生かせる?」と直接的なリンクを求めてしまう。しかし履修後には、学びの本質、人間の知の営みとアイデンティティ、言語教育または教育活動すべての最終的な目標地点、といった大きな視点と枠組みを得られたと感じている。成績はA-で残念だったけれども。

 

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フルブライトエンリッチメントセミナー その3 3〜5日目

3日目。

午前中は教育における正義について、国際的視点と国としての視点の両方をテーマとしながらのパネルディスカッション。

午後はグループに分かれ、教育機関の訪問。学校、研究機関、政府機関、民間機関のいずれかを選び訪問する。私は政府機関を選択し、U.S. Institute of Peaceを訪問した。

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平和構築を教育プログラムとして推進している機関なのだが、個人的には、平和構築をプロジェクトと考え、マネジメントしていく姿勢がアメリカらしいと思った。

その日の前日には、アメリカがシリアを空爆したという大きなニュースが入ってきていた。一緒のグループには、アフガニスタン出身の公共政策を学ぶ院生がいた。建物の内部に入る前のセキュリティチェックで並びながら彼に、「今日は、この平和機関と名乗るところに聞きたいことがたくさんあるんじゃないの?」と尋ねると、「昨日からたくさん考えた。昨日のことは…今ここでは話したくない」と答えた。

Institute of Peaceを後にする直前、その機関のプロモーションビデオ的なものを見た。戦争、紛争、教育、貧困、希望、をイメージさせるような写真と映像が代わる代わる映し出される構成なのだが、その中の1枚の写真が私の目を引いた。

Nuclear Power for Peaceと赤い文字で書かれた広告だ。第二次世界大戦直後頃の広告と思われる。それをこの「平和機関」で表示することの意図するものの意味を理解しかね、スタッフに質問をした。

アメリカの原子力政策と原発ビジネスのこと、アメリカの教育機関は原爆投下をどういった立場で教えているのかということ、この「平和機関」と名乗る機関では米軍の劣化ウラン弾も含めた核の使用及び核保有をどう見ているのかということ。

予想通り、スタッフは答えることはなかった。

 

その後グループでナショナルモール自由行動。私たちはナショナルギャラリーオブアートへ行ったが、時間が足りず残念だった。

アインシュタインの膝の上で、皆で本を読んでいるふりをしたかったのだが失敗。

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夕食はパネルディスカッションとプレゼンテーションを聞きながらの食事。教育者が教育行政と政策、実践においてどのように連携していくべきかについて。

  

4日目。教育における正義について、行政と現場をどのように融合するかパネルディスカッション。

その後専門分野のグループに分かれ、ワークショップ。私は英語教授法(TESOL)グループで、世界中からの英語教員と共に教材開発と指導案作成をした。

午後はリフレクションを行い、教育における正義について今後自分たちのできることについて全体ディスカッション。

その後は全体写真撮影の後、自由行動。私は、マイアミのオリエンテーションで知り合った、ジョージワシントン大学に通うvisiting researcherで、テクノロジーと政治学を研究するブラジル人と8か月ぶりに再会した。そして、なぜか道端で出会った彼の同級生の友人も巻き込み大勢で語り合うことになった。私は日本では通常こんなことはしないのだが、ナチュラルにそのようにしてしまったのは、ここがアメリカだからなのか、明るいラテン気質がうつったからなのか。

 

クロージングディナー会場へ移動し、代表者の力強いスピーチに感銘を受けながらさまざまな人と語り合う。90人もいると、4日間では全員の顔と名前が一致しない。各国の英語教育事情を聞き、多くの国で、英語教員が博士号を取るために3〜5年間の休職を認められていることを知って驚き、羨ましく思った。しかも在学中、給与も全額保証されるらしい。少なくとも東京都ではそのような制度はないと伝えると、世界中の人たちに逆に驚かれ、哀れまれ、英語教育に力を入れるためには教員の質を高めなければいけないのにね、と言われた。

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夜は数十人でバーへ。もはや全員入りきれていないが気にせず飲み、語る。世界中に、志を同じくしてequity warriorとして自分のフィールドでベストを尽くし続ける仲間がいるという希望と安心と連帯感が嬉しい。

バーを出た後もなんとなく離れがたく、話し足りなく、ホテルのロビーで明け方まで大勢で語り合った。世界中の明るく優秀でまっすぐな若者から、元気と勇気をもらえた気がする。自分のフィールドの中で、世界を少しだけ良くするために努力し続けようと素直に思える。

 

5日目。夕方の飛行機組はまたナショナルモールへ行ったようだが、私は朝のアムトラック。大学院の授業を休んで来ているので課題がたまっている。

 

夢のような5日間で、今でもマイアミオリエンテーション仲間とも、DCエンリッチメント仲間ともゆるやかに繋がっている。今回は、教育という軸を共通に持つ者同士で議論できたのが有意義だった。

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