TESOL@ペンシルベニア大学

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Spring Term 大学院授業の振り返り3 Communication and Culture in Context

春学期は、必修科目の2つ(教育における社会言語学、第二言語習得)が理論ベースだったため、選択科目は実践的なものを選んだ。

その選択科目のうちの一つであるCommunication and Culture in Contextでは、言語教育とは単に言語を教えるだけではなく、学習者がさまざまな場でコミュニケーションを可能にするように導くことである、という考え方を基盤とする。そのためには、インタラクションのしきたり、丁寧さ、ジャンル、コミュニケーションのための戦略などを学習者が身につけ、多様な場や社会的立場やアイデンティティを踏まえた上でコミュニケーションの目的を達成する必要がある。この授業では、それらを理論的枠組みの中で捉え、さらに教育者としてどのように指導するかをたっぷりと学んだ。

 

Week 1. イントロダクション intercultural competenceとは
論文1本。記号としての言語ではなく、社会におけるコミュニケーションの中での言語という観点から言語を定義、議論。同じ観点から文化を定義、議論。

 

Week 2. グローバル世界における言語教育とintercultural competence
論文3本。多文化共生、グローバル世界における協働能力をどのように言語教育の中で育てていくか議論。

 

Week 3. 言語と文化の関連と言語教育
論文3本。多様な背景を持つ人々とどのように交流し、多文化共生のための価値観や言語能力を育てていくか議論。

 

Week 4. プラグマティクス上でのコミュニケーションの失敗と言語教育
論文3本。プラグマティクスの面でコミュニケーションにおける誤解や失敗の発生を取り上げ、それらをどのように言語教育に取り込んでいくか議論。

 

Week 5. intercultural interactional competenceとは何か
論文3本。多文化間における交流を行うために必要な力を定義し議論。

 

Week 6. intercultural interactional competenceをどう育てるか(伝統的手法)
論文3本。多文化間における交流を行うために必要な力を言語教育の場でどう育てるかについて、プラグマティクスの立場など、伝統的な手法から分析し議論。

 

Week 7. intercultural interactional competenceをどう育てるか(現代的手法)
論文4本。多文化間における交流を行うために必要な力を言語教育の場でどう育てるかについて、多文化共生、アイデンティティ、socialization、community normといった広い現代的視点で分析し議論。

 

Week 8. intercultural interactional competenceをどう育てるか(実際の授業方法)
論文4本。intercultural interactional competenceを育てるために英語の授業で組み入れられる授業方法やタスク、アクティビティの意義や目的、実施方法について議論。

 

Week 9. 授業デモンストレーションのプレゼンテーション
大学院の授業外で行われる、実際の生徒を対象にしたintercultural interactional competenceのための授業の指導案と活動をまとめ、プレゼンテーションを行う。

 

Week 10. ユーモアを言語教育で教える事例
論文3本。intercultural interactional competenceの観点から、ユーモアが言語教育のカリキュラム内に組み入れられたケーススタディを分析、議論。

 

Week 11. ユーモアを英語教育で教える効果
論文3本。intercultural interactional competenceの観点から、英語教育でユーモアを教えることによる効果と、具体的な手法について分析、議論。

 

Week 12. ユーモアを教える
論文3本。英語教育の場でユーモアを教える具体的手法、タスク、アクティビティ、およびその背景にある理論について分析、議論。

 

Week 13. 授業デモンストレーションのプレゼンテーション
大学院の授業外で行われる、実際の生徒を対象にしたユーモアの授業の指導案と活動をまとめ、プレゼンテーションを行う。

 

Week 14. intercultural interactional competenceの評価法
論文4本。生徒のintercultural interactional competenceをどう評価し、授業の中にその評価方法を組み入れるかについて議論。

 

Week 15. 最終プロジェクトプレゼンテーション
各自でintercultural interactional competenceを育てるための授業案、研究など自由に最終プロジェクトを立ち上げ、そのプレゼンテーションを行う。

 

 

その他の課題

1.リーディングレスポンス(隔週)
隔週で、2週間分の課題論文に対する発展的なレスポンスを提出。教授から、次年度の授業で生徒に示すモデルとしての使用を依頼されてかなり嬉しかった。

 

2.授業デモンストレーション(2回)
秋学期に教えていたPEDAL@GSEの大人の生徒を対象に、intercultural interactional competenceをテーマとした授業を2回、グループで行った。

アメリカで英語を教える(番外編1)嫌われない不満や文句の表現 - TESOL@ペンシルベニア大学

アメリカで英語を教える(番外編2)sarcasmの使い方 - TESOL@ペンシルベニア大学

1回目のテーマはspeech act(言語活動)で、私たちのグループは、大人としてふさわしい、丁寧な不満や文句の表現方法を教えた。2回目のテーマはユーモアで、私たちのグループはsarcasm(皮肉めいた、ユーモアや冗談も含む表現)を教えた。

 

3.授業デモンストレーションのレポート(2回)
上記の授業デモンストレーションについて、理論的枠組み、指導案、活動の設定理由、コンテクスト、実際の授業で起きたこと、うまくいったこととその理由、うまくいかなかったこととその理由等を読んだ論文と照らし合わせ、連関させてグループでレポートを提出。

 

4.最終プロジェクト
自由にテーマを設定し、intercultural interactional competenceを育てるためのプロジェクトを作成、またはそれに関する実験を行い報告する。私は、勤務校で実施している海外リーダーシップ研修の事後ワークショップ “Post Global Leadership Program: Enhancing Intercultural Interactional Competence” を作成し、プラグマティクス、アイデンティティ、チームワークを柱とした4日間のワークショップの指導案と教材を提出した。クラスメートの作成したプロジェクトはさまざまで、アメリカに住む留学生の就職時の履歴書の書き方や面接のためのワークショップ、アメリカに移民として暮らし始めたばかりの大人対象のワークショップ等、プレゼンテーションを聞くだけでワクワクするようなプロジェクトが数多くあった。中にはHow are you?に対する反応のデータを大量にとり、native speakerとnon-native speakerとの間の差異を実験報告としてまとめたプロジェクトもあった。

 

 

 

最終成績はA-をいただいた。1回目の授業デモンストレーションで内容を盛り込みすぎて消化不良になってしまったことと、そこでのグループワークがうまくいかなかったことが響いた。教授が私たちの授業を観察に来た際、グループメンバーと授業中にうまく協力できていないことを指摘された。多国籍の複数の生徒とグループワークをするのは本当に難しい。しかも初対面のメンバーと共に授業案を作成し、実際に行うのだ。グループワークでもまさにCommunication and Culture in Contextを学んだ。

 

この授業は私にとってeye-openingだった。

日本の高校で教えてきたので、生徒のほぼ全員が日本語を母語とし、文化的背景や社会的立場もある程度均質であるという環境に慣れきっていた。

しかし、秋学期に3か月多国籍の大人を対象に英語を教え、アイデンティティや文化背景、価値観や母語の違いによる言語学習の違いや、それによって教室で生まれる発展的なコラボレーションの面白さを体験した。多様な生徒が教室にいることこそがアドバンテージだと思えるようになった。

そこで大学院でのこの授業では、多様な生徒を対象に、言語教育を通じた協働や多文化共生やアイデンティティの構築を促す実践的な授業案とその理論的枠組みを学ぶことができた。ここで学んだことは、ESL環境のみならず日本のようなEFL環境でも活用し実践できると信じている。

 

 

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Spring Term 大学院授業の振り返り2 第二言語発達

秋学期に履修した3つの必修科目に加え、春学期にさらに2つの必修科目を履修した。Second Language Developmentは、TESOL専攻の最後の必修科目だ。

第二言語習得、Second Language Acquisitionと呼ぶ方が一般的なようだが、ペンシルベニア大学ではSecond Language Developmentという考え方の立場のようだ。

この授業では講義やディスカッションのほか、毎回グループプレゼンテーションが行われた。課された論文をまとめ、2〜3人グループでプレゼンテーションを行った後、それに関わるディスカッションのための質問を2つ用意する。そしてクラス全体(20人ほど)でのディスカッションの運営とまとめを行う。

 

Week 1. 言語習得、言語発達とは何か
論文1本。第二言語習得second language acquisitionと第二言語発達second language developmentの違いについて議論。言語習得を表すイメージを図として描き、グループプレゼンテーションを行った。

Week 2. 母語習得
論文3本。母語の習得メカニズムとプロセスについて議論。

 

Week 3. バイリンガリズムとマルチリンガリズム
論文4本。バイリンガル、マルチリンガルの定義とその言語習得メカニズムについて議論。

 

Week 4. 言語習得における年齢
論文7本。言語習得の重要な要因の一つである年齢について議論。臨界期はあるのか、いつなのか、大人が言語学習を始める際のヒントなど。

 

Week 5. 言語間の影響
論文3本。第二言語の習得における、母語の影響と、その逆である第二言語の母語への影響について、表面上の言語習得結果への影響と、概念レベルでの影響について議論。

 

Week 6. 言語環境
論文2本。第二言語習得の重要な要因の一つである言語環境について議論。

 

Week 7. 学習者の言語発達
論文4本。第二言語習得の過程で起こるとされるinterlanguage, fossilization, multicompetenceについて議論。

 

Week 8. 学習戦略と資質
論文3本。第二言語習得に適している資質の有無と学習戦略について議論。

 

Week 9. モティベーション
論文3本。第二言語習得の重要な要因の一つであるモティベーションについて議論。

 

Week 10. 個人差と言語習得
論文3本。言語習得における個人差の有無とその要因について議論。

 

Week 11. 社会要因
論文6本。言語習得の認知メカニズム、社会要因などを社会言語学的立場から議論。主にsocializationやconversation analysisから分析。

 

Week 12. リンガフランカとしての英語
論文4本。リンガフランカとして英語を見た場合、その概念を実際の教室でどのように活用するか、教材にどのように組み込むか議論。

 

Week 13. sociocultural theorysocial identity theory
論文4本。第二言語習得とアイデンティティ、社会文化的理論との融合について議論。

 

Week 14. complexity theory
論文3本。複雑性理論から第二言語習得を分析、議論。

 

Week 15. リサーチメソッド
論文3本。第二言語習得の分野での研究手法とリサーチプロポーザルについて、それぞれのテーマで議論。

  

その他の課題

1.リーディングレスポンス(毎回)
毎週、授業の2日前までに課題論文を読み、発展的なレスポンスをオンライン掲示板に提出。授業前日までにクラスメートのレスポンスを読み、オンライン掲示板にコメントを書き込む。

 

2.言語学習分析レポート
第7週に提出。自分の第二言語学習や第三言語学習の経験について分析しレポートを書く。

 

3.プレゼンテーションとディスカッションのまとめ
私は第5週に担当。グループで課題論文を要約しプレゼンテーションを行う。さらにそのテーマに沿ったディスカッションのための質問を用意し、クラス全体のディスカッションを運営する。私は言語間影響、特に時間軸の概念化の相互影響と認知メカニズムについて発表した。

 

4.言語習得の研究プロポーザル
最終週に提出。言語習得に関して自分でテーマを設定し、リサーチプロポーザルまたはティーチングプロポーザルとして提出。私は、昨年度から始まった都立高校の英語の授業におけるオンライン英会話の導入のもたらす影響についてリサーチプロポーザルを書き、提出した。

 

 

成績はAをいただいた。TESOLを専攻し、実践的な英語教授法を学ぶだけではなく、言語教育の根幹となる言語習得の理論についてきっちり学ぶことができ、とても勉強になった。そしてその理論だけではなく、理論をどのように現場に生かすかを常に話し合い、フィールドワークで実践し、授業内ディスカッションで議論し合ったり指導案を組み立てたりできたのが有意義だった。

教員として働いていると、経験と勘と生徒の反応とで、何が効果的でどのように改善したら良いのかが何となくわかるものだ。しかし、さまざまな研究者によって明らかにされた第一言語習得のプロセスと、第二言語習得との違いと、第二言語学習に効果的な手法とその背景にある理論を学ぶことで、自分の授業内での活動をもっと意義あるものにできそうだと思った。

 

 

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Spring Term 大学院授業の振り返り1 教育における社会言語学

ペンシルベニア大学のTESOL専攻では修了までに12講座を履修する。春学期は4講座履修した。うち2つは必修科目であり、あとの2つは選択科目である。

必修科目の一つであるSociolinguistics in Education教育における社会言語学について振り返ろうと思う。

Week 1. 社会言語学とは何か

論文1本。社会言語学の考え方と理論のイントロダクションを行った。言語の枠組みについてグループでディスカッションののち、word webをグループで作成しプレゼンテーションを行った。

Week 2. スピーチコミュニティとは何か

論文4本、ビデオ1本。variationist, ethnographic, interactionalの3つのアプローチを基に、スピーチコミュニティを分析。HymesのSPEAKINGモデルをベースに、Setting, Participants, Ends, Act sequences, Key, Instrumentalities, Norms, Genreのそれぞれについて事例と経験を分析しグループで発表した。

Week 3. language socializationとは何か

論文4本、ビデオ1本。言語習得と言語社会化との区別をし、社会やコミュニティにおける言語獲得のメカニズムと要因について分析、ディスカッションした。Sociolinguistics Self-analysis提出。

Week 4. repertoire approachとは何か

論文5本、ビデオ1本。Rymesの論文から、repertoire approachを社会言語学の枠組みに当てはめ、crosstalkやcomembershipが生まれる条件や事例について議論した。

Week 5. 言語イデオロギーと歴史

論文4本、ビデオ1本。Native Speakerの概念、language governmentalityの概念について議論。社会制度や階層、使用言語から生まれるイデオロギーや社会構造について議論した。フィールドレポートその1提出。

Week 6. 言語イデオロギーと言語活動の関係

論文4本、ビデオ1本。さまざまなenregistermentを認め、prescriptivismを批判する立場から、vocal fryやChinglishの生まれる社会要因と結果と分析し議論した。

Week 7. 言語とアイデンティティ

論文4本、ビデオ1本。variationist, ethnographic, interactionalそれぞれの立場から見た言語とアイデンティティの関係を分析し議論。ネイション・ステートの考え方が言語学習にどのような影響を及ぼしているか議論。クィア理論、ゲイのアイデンティティと言語学習についても議論した。フィールドレポートその2提出。

Week 8. 言語的コンタクトゾーン

論文6本、ビデオ1本。translanguagingとコンタクトゾーンについて議論。

Week 9. 言語的コンタクトゾーンにおける表現

論文4本、ビデオ2本。envoicing, recontextualization, interactional, entextualizationの4つのtranslanguagingの手法を分析し議論。フィールドレポートその3提出。

Week 10. translanguagingを言語教育にどう生かすか

論文6本、ビデオ1本。生徒の言語活動の発展及び教員の指導法向上のためにtranslanguagingをどのように教室に活用するかを議論。

Week 11. language architecture

論文5本、ビデオ1本。生徒をlanguage architectureに育てるための準備と具体的な手法とその理論について議論した。translingual projectのドラフト提出。

Week 12. critical literacy

論文5本、ビデオ1本。生徒のcritical literacyを高めるためにどのように授業を運営するか議論。カンファレンスプロポーザル提出。

Week 13. reflection

これまでに学んだ社会言語学に関する概念と理論を総括し議論。translingual project提出。

Week 14. ポスター発表

カンファレンスプロポーザルをポスターとしてまとめ、出力し、ポスタープレゼンテーションを行った。

 

その他の課題

1.社会言語学自己分析

自分の言語習得および言語学習の経験について、variationist, ethnographic, interactionalの3つの観点から自己分析しレポートとして提出。

2.社会言語学フィールドレポート(3回)

授業やディスカッション、会話など言語活動の場を少なくとも3回観察、録音し、それらをアイデンティティ、governmentality, comembership, socializationなどといった社会言語学の基本概念から分析しレポートを提出。

3.カンファレンスプロポーザルとポスタープレゼンテーション

上記2のフィールドレポートを基に、自分の観察した言語活動の場で発生したことを社会言語学的に分析し、学会発表へのプロポーザルと同じ書式でプロポーザルを提出。さらにそれを基にポスター発表用のポスターを作成しプレゼンテーションを行った。

4.translingual project

自分の言語習得や言語獲得プロセスをテーマとしてtranslanguaingを用いたプロジェクトを作成。絵本、ポッドキャスト、映像、小説等書式は自由。私はパワーポイントのアニメーションを用いながら日本の短歌と英語による短歌を組み合わせた、言語習得とアイデンティティに関するプロジェクトを発表した。

5.最終プロジェクト

グループで、社会言語学の概念を組み入れた授業案と教材を作成し、その関連する理論や概念とどう繋がるかも含めレポートとして提出。私たちのグループは、プラグマティクス、language architect、socialization、アイデンティティを柱とした授業案を3つ作成した。3つの授業のテーマはsmall talk (language architect)、refusal strategies(identity and socialization)、compliment and microaggression(解釈の基準)とし、それぞれ授業案と教材を作成した。

 

 

正直に言うと、この授業は抽象度が高く苦労した。長年教員として勤めてきたため、理論そのものよりも、その理論をどのように実践に生かすかプラクティカルな方面に関心が向いてしまうのだ。

じっくりと社会言語学の理論を学べたのは大変に貴重な機会だったのだが、常に「英語の授業で実際これをどう活用するの?」「日本の高校で生かせる?」と直接的なリンクを求めてしまう。しかし履修後には、学びの本質、人間の知の営みとアイデンティティ、言語教育または教育活動すべての最終的な目標地点、といった大きな視点と枠組みを得られたと感じている。成績はA-で残念だったけれども。

 

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