TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

Fall Term 大学院授業の振り返り1 英語教授法概論

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ペンシルベニア大学のTESOL専攻では、修了まで12講座をとる。フルタイムの学生は全員、最初の学期は3講座を受講すると決められており、留学生の場合、科目も3つ全て決められている。アメリカ人学生の場合、2つは決められているが1つは自由に選択できる。

その中の一つ、Approaches to Teaching English and Other Modern LanguagesはTESOL専攻の核とも言える授業だった。英語教授法の各スキルごとの理論や、伝統的指導法から新しい指導法まで丁寧に論文を読み、それぞれについて議論したり、英語の個別指導を行ったりグループで指導案を作成したりして、さらにそれを基に議論を行った。理論を実践に生かす際に、具体的にどのように何を行うのか、その目的は何なのかを常に考えさせられ、表現することが要求された。最終課題では、自らの指導哲学を挙げ、それらと理論を組み込んだ指導案の作成が求められた。

以下に各週の内容を記す。TESOL留学を検討している人の資料となれば幸いだ。

1. イントロダクション

予習として基本テキスト2冊のそれぞれ第1章と、追加論文を3本読み映像を1本観て、授業では「言語を知るとはどういうことか」「言語学習者の能力をどう定義するか」についてディスカッションをしたり、approach, method, techniqueの違いを議論したりした。授業において、「なぜそれを行ったのか、その活動を行った理由は何か」とrationaleを常に意識するよう叩き込まれたのがこの初回だ。principle(指導原則や指導哲学)とtechnique(指導技術)が乖離せず、thoughtsとactionsが繋がるように授業を行えと言われ、初回から大いに反省した。

2. 伝統的指導法とデザイナーメソッド

文法訳読法、ダイレクトメソッド、オーディオリンガルメソッド、サイレントウェイ、サジェストピディア、コミュニティラーニング、トータルフィジカルリスポンスのそれぞれについて論文を読み、授業ではその例となる授業を視聴後全員でディスカッション。授業での教員と生徒の行動と、その指導原則や哲学を話し合った。

3. CLTとTBLT

Communicative Language Learning (CLT)とTask-based Language Learning(TBLT)についての論文を6本読み、授業2日前までに自分の経験や考えを入れながらreading responseをオンライン掲示板に750語以内で書き込む。単なる感想ではなく思考を深め、自分の指導に当てはめ、発展的なresponseを書かないといけない。さらに授業前日までに少なくとも3人のクラスメイトに対しコメントを書く。授業当日は、それぞれの例となる授業を視聴後全員でディスカッション。grammatical competenceやsociolinguistic competence、interactional competenceについても話し合った。

4. CBIとポストメソッド

Content Based Instruction(CBI)とポストメソッドについての論文を7本読み、前回と同様に授業2日前までにreading responseとクラスメイトへのコメントを提出。授業当日はCBIの例となる授業を視聴し議論。ポストメソッドのpositivesとnegativesについての議論も行った。

5. NNESTsと英語の授業における母語の使用

Native English-speaking TeachersとNon-native English-speaking Teachersのテーマは文化的、社会環境的にもさまざまな問題をはらんでいる。私自身、自分をNon-native English-speaking Teacherと定義してきたが、Bilingual Teacherと定義し直せばあら不思議、なんだかポジティブになる。この問題と、英語の授業における母語使用に関する論文を4本読み、授業2日前までにresponseとコメントを提出。授業では、TESOL団体がNNESTsへの差別に反対するposition statementを出した意義や、Bilingual Teachersの利点等を話し合った。native English speakerではないことをdeficitと考えるのではなく、生徒と第一言語を共有していることをresourceと考えるという立場に共鳴した。

6. Needs Analysisと指導計画

論文を8本読み、言語学習者のニーズ分析とマクロ計画、マイクロ計画について考えを深め、授業では実際の英語指導コンテクストを数種類渡され、学習者のnecessities, lacks, wantsについて分析する。フィラデルフィアに限らずアメリカで英語を教える場合、生徒は移民の大人や、家庭では英語以外の言語を使用する子どもだ。コミュニティベースの指導環境であり、日本の高校での英語教育環境とは大きく異なる。私は日本に戻り高校で英語を教えるが、クラスメイトの多くはアメリカで英語を教え続ける。多様なバックグランドと目的をもつ生徒だからこそ、学習者のニーズ分析は特に重要だと感じた。

7. Teacher TalkとCorrective Feedback

授業中のTeacher Talkに関する論文を6本読み、質問の仕方や生徒の発話の促し方、対話の流れやConversation Analysisについても考えを深め、授業2日前までにresponseとコメントを提出した。授業では、よくある"Very good!"という教員のリスポンスのもたらす良い点と悪い点まで議論を深めたり、生徒の回答を待つ時間と待ち方や発話の引き出し方、自らのTeacher Talkが教育的意義をもつかどうかまで議論した。

8. Speaking

スピーキング指導に関する論文を5本読み、いつものようにresponseとコメントを事前に提出。授業では、speaking competenceの定義や、母語と英語との間にその差異はあるかについて議論した。スピーキングの練習をさせることと、スピーキングを教えることは別である。核となるスピーキングの力とは何なのか、根本を考えた上で指導に生かす方針だ。さらに発音に関しても議論した。「ネイティブのような発音」を目指すよりも、妥当で現実的な目標を設定した方がはるかに建設的だ。正しい発音など存在しない。コミュニケートする上で問題なく理解してもらえる発音指導を目指したい。correct pronunciationにこだわりすぎず、intelligibilityにこだわるべき、という議論になった。

9. Listening

リスニング指導に関する論文を5本読み、responseとコメントを事前に提出。授業では、リスニングの評価にも話が及んだ。リスニング力があるかどうかをどう評価するのか、伝統的なcomprehension questionの限界と、リスニング力を測定するためにスピーキングやライティングの力を使うことなども議論した。リスニング指導法に関しては、メタ認知的手法での指導が効果的だそうだ。

10. Pragmaticsとディスコース

プラグマティクスに関する論文を6本読み、responseとコメントを事前に提出。プラグマティクスをpragmalinguisticsとsociopragmaticsの2つに分け、授業の中では主に後者について議論した。Conversation Analysis(会話分析)を一度してみると、教科書の英文がいかに人工的で実際の英語からかけ離れているかがよく分かる。ではこのようなプラグマティクスを、英語学習者に、いつどのタイミングで教えるべきか、または教える必要がないのか、そしてどのように教えるのかについて議論した。3人グループになり、プラグマティクスを英語初級者に教えるという設定で、30分の指導案を作成し、翌週にグループ発表を行った。

11. 文法と語彙

文法指導と語彙指導に関する論文を6本読み、responseとコメントを事前に提出。授業では、そもそも正しい文法とは存在するのかという議論から始まり、prescriptive grammarとdescriptive grammar、mental grammar、pedagogical grammarについて話が広がった。バーガーキングのTVコマーシャルの "40% less fat" やスーパーのレジでよく見かける "10 items or less" (買い物点数が少ない人だけが並べるレジ)の表示、マクドナルドのTVコマーシャルの "i'm lovin' it" を例に挙げ話し合った。マクドナルドの表現については、実際に4年前に日本の現任校の生徒に質問され、CMだからキャッチーにしたのかもね、とか答えた気がする。「正しい」とは何なのか。誰が決めるのか。どう教えるのか。また、語彙指導をどのレベルにまで掘り下げるかも議論した。

12. Reading and Writing

リーディング指導とライティング指導に関する論文を7本読み、response課題は無し(代わりに授業見学レポートがあったため)。授業では、実際にニュージーランドの大人の移民を対象にしたリーディング指導の教材と指導例を用い、指導目的や活動意図などを分析し議論した。また、ライティング指導に関しても、英語を母語としない大学生の書いた卒業論文のAbstractの表現の不適切な箇所(多くはプラグマティクスとコロケーション)を指摘し、なぜ不適切なのか、どう指導するのかを議論した。

13. Assessment and Evaluation

評価に関する論文を4本読み、授業では、私も教えているPEDAL@GSEのレッスンの初回に行うレベルチェックインタビューとそのrubricsを例に挙げ、評価の意図と目的、さらに改善案を話し合ったりした。

14. Final Presentation

最終課題を授業2日前までに提出し、その課題についてのプレゼンテーションを行った。指導案やパワーポイント資料など、何を持参しても可。お互いのプレゼンテーションを評価項目に従い評価し、コメントを加え、発表者に提出した。

 

 

 その他の課題

1. 個別指導

英語学習者を自力で一人探し出し、少なくとも3回(合計3時間)英語を教える。指導を振り返り、これまでに読んだ論文と繋げながら自分の考えを1000語程度でオンライン掲示板に提出する。第9週と第13週の2回提出する。さらに少なくとも2人のクラスメイトにコメントを提出する。

私は韓国人の工学部の大学院生に5回英語を教えたが、2つ特に苦労したことは、自力で英語学習者を見つけ出すことと、その学生が英語上級者であるために「もっと速く賢そうに話せるようになりたい」という目標を実現することだった。

多くのクラスメイトがfacebookで無料個別指導希望者を募っていた。私は9月のacademic skill workshopで知り合った学生に声をかけた。ペンシルベニア大学で英語個別指導が必要な、「英語が苦手」な学生を探すのは難しい。例年同じ課題でTESOLの学生は工学部の学生を教えることが多く、需要は高いと聞いていたが、それでも私の教えていた学生は「英語があまり得意ではない」と言いつつもTOEFL iBTスコア100を超えており、Pennに来る学生はそれが普通だ。TESOLに来る留学生は110以上が普通だ。私のスコアは106で、高いとはいえない。TOEFLのスコアがどうのこうの、と話題にもならないほど英語はできて当たり前で、自分の力不足が身にしみた。

2. 授業見学

3コマの授業見学をし、その授業分析レポートを5枚書く。3コマのうち1コマは必ず自分で足を運ぶ。しかも大学院の設定する3箇所の教育機関の授業に限定されている。私は近隣のTemple University(東京にもある)の付属英語プログラムの授業を2コマ見学させてもらうことができた。これも個別指導対象者を探す時と同様に、自力で見学日程と内容を交渉した。通常1コマしか見学できないところを、気持ち良く受け入れてくれるインストラクターに出会い、Listening and Speakingと、Reading and Writingの2種類の授業を見学することができた。もう一つはコスタリカの英語授業の映像を観た。

3つの授業を、共通するテーマに絞って分析し、これまでに読んだ論文と照らし合わせてレポートを書くことが求められた。

3. ADDSワークショップ

ADDS (Approaches Discuss and Do) というワークショップが授業の他に隔週で1時間半設定されており、全員が受講しなければならない。内容は、授業見学や個別指導の事前指導と事後指導、Google Docs, Google Slides, PennBoxを利用した教材作成と共有など、授業のバックアップとなるワークショップであった。

私はフルタイムでの指導経験が長いため、途中からこのワークショップは免除になった。せっかくの機会なので継続したかったのだが、大学を卒業したばかりで指導経験のない学生と指導経験の長い学生に対して同時にワークショップを行うのはインストラクターもやりづらそうで、指導経験のない学生に対して手厚いサポートをした方が良いだろうと遠慮した側面もある。

4. 最終課題

自分の指導哲学を2〜3つ挙げ、それらをこれまで読んだ論文や授業でのディスカッション、授業見学や個別指導、自らの経験と繋ぎ合わせて8枚のペーパーを書く。さらにその指導哲学を反映させた指導案を作成し、どの活動がどの意図をもち、どう指導原則と関わるのかを説明する。私は、休職している現任校の生徒と実際の教科書を基に指導案と教材を作成し、指導案やappendixも含め結局16枚のペーパーになった。3つの授業のそれぞれの最終課題の中でこれが最もpainfulな課題であった。自分の指導哲学を書き、指導案を作成しているうちにどんどん自分の未熟さと不勉強さがあらわになってくるのだ。生徒ごめん、と思いながら徹夜で書いた。勉強しなければならないと本気で思った。

 

先日最終成績が出た。Aをいただけた。口を挟む間もないディスカッションではなかなか存在感を示すことができずにいるが、毎回必ず一度は全体ディスカッションで「賢そうな発言」をしようと心がけている。同級生のアメリカ人や、公用語英語のインド人、アメリカの大学を卒業した中国人(たくさんいる)はひっきりなしに発言しているが、私は量より質で勝負だと開き直っている。問題は、どうやったら発言の質が向上するかなのだけれども。

 

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