TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

ネイティブスピーカーとは誰か(Ethnography学会に参加して)

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Ethnographyとは、日本語では民族誌学という。ペンシルベニア大学で開催された、Ethnography in Education Research Forumという、2日間にわたる学会というかフォーラムというかセミナーに参加した。

教育における民族誌学的観点をテーマにしたフォーラムであるため、発表内容はどれも、バイリンガル教育、言語や文化とアイデンティティ、言語的マイノリティ、言語と人種、教室における多様性などといったテーマであった。

現在私は「教育における社会言語学」を履修しており、まさに重なる内容であったため参加した。

悲しいことに、参加した分科会の発表者の一人が、アメリカ国外から参加するモスレムの研究者ということで、現在のこの状況でアメリカに入国することを恐れ、スカイプでの発表となった。他の分科会でも同様のことがあったようである。多様性とアイデンティティを軸とした学会であるのに、現在の政治状況から、モスレムであるがために参加を見合わせることを余儀なくされてしまうのはなんとも皮肉で、悲しいことだ。

 

日本の高校で教えているとあまり意識しない人種問題や言語とアイデンティティ問題だが、アメリカで英語を教えていると、バックグラウンドは多様なのが当たり前である。言語的マイノリティに該当する生徒を、同じく言語的にも人種的にもマイノリティである私が教えるという図式であり、自然とアイデンティティやWorld Englishesといったことを常日頃考えるようになる。

人間の数だけ言語がある。英語もそうだ。アメリカ英語の中にだって、中西部アクセントもあれば南部アクセントも西部アクセントもあるし、東海岸アクセントにあたるフィラデルフィアにも、フィラデルフィアならではのアクセントがある。フィラデルフィアが地元の同級生はフロリダに一時引っ越しした際、フロリダアクセントに染まらず、フィラデルフィアアクセントを貫いたそうだ。

アメリカ国内だけでも、こういった地域によるアクセントのほか、人種やエスニシティによるアクセント、ジェンダーによるレジスターの差もある。そう考えると、世界中で話される英語の種類は数え切れない。

 

ネイティブスピーカーとは誰なのか。「ネイティブのような発音を身につける」と煽る業者や、「ネイティブみたいに話せるようになりたい」と言う人がよくいるが、英語が世界中の人のコモディティになった今、ネイティブとは誰のことを指すのか。

きっと多くの人のイメージでは「アメリカやイギリスやカナダやオーストラリアの人が英語のネイティブスピーカー」であろう。いわゆるインナーサークル inner circle だ。同じく英語が公用語のインドやシンガポールやフィリピンの英語(アウターサークル outer circle )は想定していないのではないだろうか。

言語帝国主義 linguisitic imperialism ではないが、言語を使用するうえで政治的な力関係や社会的位置は切り離せない。そろそろ日本の英語教育のネイティブスピーカー神話から脱却し、視野を広げ、日本語母語話者のアイデンティティを保持し、日本語をリソースとしながらバイリンガル教育、マルチリンガル教育をするべき時に来ていると思う(ただし、文法訳読方式の授業しか経験したことのない人はこれには該当しないが)。

日本語アクセントが強すぎて伝わらないのは困る(実際確かによくある)が、comprehensibility と intelligibility さえクリアすれば、発音よりもっと磨かなければならないことはたくさんあると思う。話すべき内容、専門性、間接的な言い回し、文化的背景、プラグマティクスなどきりがない。発音が「ネイティブ並み」より、気の利いたジョークのひとつでも言えた方がよほどいい。

 

などということを考えたEthnography in Education Research Forum: Ethnography in Action だった。学会で提供される無料の朝食を食べそびれたのが残念だった。

 

www.gse.upenn.edu

 

 

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