TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

アメリカで英語を教える(番外編1)嫌われない不満や文句の表現

先学期に教えていた、ペンシルベニア大学の教育大学院が運営する無料英語レッスンPEDAL@GSEの上級クラスで、ゲストとして単発で再び教える機会を得た。

news.upenn.edu

今回は、intercultural interactional competence の指導法を学ぶ授業の一環として、speech act言語行為を教えるというセッションを教えた。今回は不満や苦情の表現をテーマとし、ロールプレイを中心として授業を組み立てた。通常のPEDALの授業の今週のテーマであるTransportationをテーマとして引き継ぎ、今回の授業の構成は以下の通り。

1.   3 Steps for Making Complaints (At the airport)

不満や文句の機能はdirect complaintかindirect complaintかによって異なる。direct complaintは、その不満の原因を引き起こした人物に対する不満の表現、indirect complaintは、その場にいない第三者への不満を、共感を得るために話す場合に使われる表現だ。今回はTransportationの場での不満ということで、direct complaintに絞った。

不満を言う際の3つのステップとして、explanation of purpose, complaint, request for solutionの3段階を提示し、「フライトがキャンセルになったが代替フライトもない」というシナリオでどのように不満をカウンターで述べるか練習した。

2.   3 Strategies for Complaining Politely

何かを言う際に礼儀正しくするかどうかは、その場の状況とその人の決定による。常に丁寧な表現をする必要はなく、強い表現を用い、あえて高圧的な態度で不満を述べる場合もあるし、ぼかした表現を用い下手に出る場合もある。今回は丁寧な表現に絞り、3つのストラテジーを提示した。starting expressions, showing understanding/sympathy, softening wordsの3つだ。

丁寧な表現を思いつくだけ生徒に挙げてもらった後、パワーポイントで9つの表現を紹介し、それらを上記の3つのストラテジーに分けてもらう。その後、空港での、5つの文から成る不満表現の例を提示し、その表現のそれぞれのパーツが、不満表現の3つのステップと、礼儀正しい表現の3つのストラテジーのどれに当てはまるかペアで話し合ってもらう。パワーポイントで解説する。

3.   2 Ways for Responding to Complaints

不満を言われた場合の返答の方法を2つ紹介する。今回は、minimizing complaintsと、offering a repairの2つに絞った。それぞれに対し例を提示後、先ほどの空港での不満表現に対し返答を作ってもらう。ペアで話し合い、全体で発表し共有する。

4.   Role-play

空港での4つのトラブルのシナリオを提示し、ロールプレイを行う。飛行機遅延、キャビン内の温度、バゲージクレーム、所持品紛失の、4つの詳細なシナリオを各ペアに配布し、片方が不満を言う人、もう片方がそれに対応する人の役割となり、自分たちで対話をその場で作り、会話する。対応者は簡単に謝罪せず、先に学んだ2つの対応方法を用い、不満に対処する。不満を述べる方はイライラせず、できるだけ冷静で丁寧な表現を用いることで自分の要求を通そうとするように努めさせる。役割を交代しながら4つのシナリオでのロールプレイ終了後、全体で発表してもらい、各ペアがどのようなステップやストラテジーを用いていたか発表させる。

 

言語行為speech actとしては定番の不満表現だが、褒め言葉にどう返事するかというのも面白いテーマだ。特に日本では「そんなことないです」などと謙遜することが多いが、その返答だとそこで会話が終了してしまう。それ以外のストラテジーを覚えておくことで、話題が大きく広がることもある。特に海外では、謙遜の美徳と共に喜びを素直に伝える表現も身につけておいたほうがコミュニケーションがスムーズだ。日本でそのような授業をやってみたいと思った。

 

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プリンストン大学インフォメーションツアー

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先日、春休みを利用しプリンストン大学を訪問してアドミッションインフォメーションセッションに参加した。説明会の後は大学の提供するツアーには参加せず、プリンストン大学の大学院に在籍する友人に学内や図書館、院生室等を案内してもらったのだが、図書館にせよ美術館にせよ、とても恵まれた環境であった。プリンストンにどっぷりと浸かり、きちんと勉強するには最適な場所に思えた。

プリンストン大学のあるプリンストン市は私の住むフィラデルフィアから車で1時間少しNY方面へ進んだところにあり、こぢんまりとした上品な学園都市といった印象。フィラデルフィアの街なかにあるペンシルベニア大学と異なり、静かでゆったりとしたアカデミックな雰囲気のキャンパスだった。

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インフォメーションセッションでは、大学の概要説明のほか、アドミッションにおけるSATのスーパースコアの扱い、規定以上の追加の推薦状の提出の扱い、入学後の奨学金制度の詳細や留学制度など、公式HPで得られる情報以上のものを聞くことができた。

日本の高校に勤務しながら、アメリカの大学に進学を希望する生徒に適切な情報やアドバイスを提供するのはなかなか難しい。エッセイの書き方などさまざまな本も出回ってはいるが、各大学で欲しい学生像や重視する点も異なるため、実際に生の声を聞けるのは大きかった。

フィラデルフィアに戻り、ペンシルベニア大学のアドミッションインフォメーションセッションにも参加したが、ペン大でのアドミッションプロセスでは重視する点がプリンストン大とは異なっており、興味深かった。毎年、一人あたり数千通のアドミッションエッセイを読んでいるアドミッションオフィサーの現場の声から、高校生をアメリカの大学にどのように送り出したらいいのか、少しだけ見えてきたものがあったので、今後の指導に生かしたいと思う。

あくまで個人的な意見だが、ペン大のような都市部にある大学のメリットの一つは、コミュニティと連携した実践がしやすいということが挙げられると思う。フィールドワークの機会、コミュニティでのサービスラーニングの機会、コミュニティと連携した実験、市とのパートナーシップを通じた実践などがペン大には非常に多い。研究レベルになるとわからないが、学生レベルの視点からすると、学んだことを実践に生かせる場がいくらでもあるというのはとても恵まれていると思う。

何よりも大切なことは、その大学に、研究内容や目的、さらには人物像で合っているかどうかだ。2つの大学のアドミッションインフォメーションツアーを通じ、それを改めて実感できたのが収穫であった。

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ネイティブスピーカーとは誰か(Ethnography学会に参加して)

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Ethnographyとは、日本語では民族誌学という。ペンシルベニア大学で開催された、Ethnography in Education Research Forumという、2日間にわたる学会というかフォーラムというかセミナーに参加した。

教育における民族誌学的観点をテーマにしたフォーラムであるため、発表内容はどれも、バイリンガル教育、言語や文化とアイデンティティ、言語的マイノリティ、言語と人種、教室における多様性などといったテーマであった。

現在私は「教育における社会言語学」を履修しており、まさに重なる内容であったため参加した。

悲しいことに、参加した分科会の発表者の一人が、アメリカ国外から参加するモスレムの研究者ということで、現在のこの状況でアメリカに入国することを恐れ、スカイプでの発表となった。他の分科会でも同様のことがあったようである。多様性とアイデンティティを軸とした学会であるのに、現在の政治状況から、モスレムであるがために参加を見合わせることを余儀なくされてしまうのはなんとも皮肉で、悲しいことだ。

 

日本の高校で教えているとあまり意識しない人種問題や言語とアイデンティティ問題だが、アメリカで英語を教えていると、バックグラウンドは多様なのが当たり前である。言語的マイノリティに該当する生徒を、同じく言語的にも人種的にもマイノリティである私が教えるという図式であり、自然とアイデンティティやWorld Englishesといったことを常日頃考えるようになる。

人間の数だけ言語がある。英語もそうだ。アメリカ英語の中にだって、中西部アクセントもあれば南部アクセントも西部アクセントもあるし、東海岸アクセントにあたるフィラデルフィアにも、フィラデルフィアならではのアクセントがある。フィラデルフィアが地元の同級生はフロリダに一時引っ越しした際、フロリダアクセントに染まらず、フィラデルフィアアクセントを貫いたそうだ。

アメリカ国内だけでも、こういった地域によるアクセントのほか、人種やエスニシティによるアクセント、ジェンダーによるレジスターの差もある。そう考えると、世界中で話される英語の種類は数え切れない。

 

ネイティブスピーカーとは誰なのか。「ネイティブのような発音を身につける」と煽る業者や、「ネイティブみたいに話せるようになりたい」と言う人がよくいるが、英語が世界中の人のコモディティになった今、ネイティブとは誰のことを指すのか。

きっと多くの人のイメージでは「アメリカやイギリスやカナダやオーストラリアの人が英語のネイティブスピーカー」であろう。いわゆるインナーサークル inner circle だ。同じく英語が公用語のインドやシンガポールやフィリピンの英語(アウターサークル outer circle )は想定していないのではないだろうか。

言語帝国主義 linguisitic imperialism ではないが、言語を使用するうえで政治的な力関係や社会的位置は切り離せない。そろそろ日本の英語教育のネイティブスピーカー神話から脱却し、視野を広げ、日本語母語話者のアイデンティティを保持し、日本語をリソースとしながらバイリンガル教育、マルチリンガル教育をするべき時に来ていると思う(ただし、文法訳読方式の授業しか経験したことのない人はこれには該当しないが)。

日本語アクセントが強すぎて伝わらないのは困る(実際確かによくある)が、comprehensibility と intelligibility さえクリアすれば、発音よりもっと磨かなければならないことはたくさんあると思う。話すべき内容、専門性、間接的な言い回し、文化的背景、プラグマティクスなどきりがない。発音が「ネイティブ並み」より、気の利いたジョークのひとつでも言えた方がよほどいい。

 

などということを考えたEthnography in Education Research Forum: Ethnography in Action だった。学会で提供される無料の朝食を食べそびれたのが残念だった。

 

www.gse.upenn.edu

 

 

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