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TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

Fall Term 大学院授業の振り返り3

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今学期に受講した大学院授業を振り返ってきたが、今日は3つのうちの最後の1つ、Language for Specific Purposes について振り返る。これは留学生全員が必ず最初のタームに受講しなければならない授業で、母語が英語であろうとアメリカの大学を卒業していようと、アメリカ人学生以外はとにかく全員受講する。

内容は英語教授法に直接関わるものではなく、Western chauvinism 西洋的価値観至上主義(ショービニズム)への批判、ノンネイティブとしてのアイデンティティ、hedging ヘッヂング(ぼかし言葉)の学術論文への使用などを中心の話題としながらアカデミックライティングを学ぶものであった。

TESOL 専攻の学生だけではなく、ICC (Intercultural Communication) 異文化コミュニケーション専攻の学生と一緒のクラスだったため、文化価値観やアイデンティティに関し議論するのが本当に面白く勉強になった。

しかし、この授業に関しては批判的な意見をもつ学生も多くいた。私自身は日本で生まれ育ち均質な文化に慣れきってしまっていたため、多様性を重視しノンネイティブ学生だからこその資質をリスペクトする授業内容にも受講者そのものにも何の疑問ももたずにいたし、ICC 専攻の学生も楽しんでいるようであったが、TESOL 専攻の学生の多くはそうではない。

まず第一に、修了まで2年間で12講座受講するうちの1つとして英語教授法と直接関わらないものを強制されることへの批判である。1講座受講するのに授業料は$6,038、日本円にして70万円ほどである。年間の授業料を400万円以上支払っていて、自分の取りたい授業を取れずに強制されることに不満をもつ学生は多い。同じ70万円かけるのであれば、英語教授法と直接関係する授業を取りたい。ライティング指導、成人識字教育、Content-based Instruction、評価に関する授業、カリキュラム開発などさまざまな授業が開講されているのだから。

二つ目は内容への批判である。多様な文化や価値観を擁する国の出身の学生やアメリカの大学を卒業した学生にとっては、もう既にわかりきっている内容なのだ。ノンネイティブとしてのアイデンティティも確立しているし、自信もあるし、西洋的価値観に流されず自分のバックグラウンドに誇りをもっているし、アカデミックライティングなど学部生の頃に嫌というほどやった、という不満だ。さらに講座による授業内容の不一致も不満を引き起こした。15人の少人数授業だったため、同一の科目で複数の講座が開設されており、曜日によって担当者は異なり、最終課題や内容にばらつきがあった。課題によっては意義を見出せないものもあったようだ。

三つ目は受講者を留学生に制限していることへの批判だ。ノンネイティブへのリスペクト、西洋的価値観至上主義への批判という内容を教えるのであれば、アメリカ人学生にも同様に受講させるべきであろう。しかし実際は留学生限定だ。授業内容そのものに矛盾してはいないか。さらにインド人学生にしてみれば英語は母語だ。私の同級生のインド人学生は、学校のみならず家庭でも英語を使用する環境で育っている。実際にはいないが、例えばカナダからの留学生がTESOL専攻にいれば、その学生も「留学生」なので強制受講になるのだろうか。

私自身は何でも面白がってしまう性質なのと、鈍いのか何の不満もなく、むしろ学ぶものが多く視野が広がり、受講して本当に良かったと思っている。以下に各週の内容を記す。

1. イントロダクション

英語のネイティブスピーカーとノンネイティブスピーカーとしての区別や差別に関する論文を2本読み、授業では、その論文に関するライティング試験が行われた。さらに、ネイティブとノンネイティブのどちらがより好ましい英語教員か、違いやそれぞれの利点、ネイティブスピーカーの定義等について議論した。
ジャーナル1提出。内容は、クラスメイトへの自己紹介1段落と、職場への自己紹介を想定して1段落をオンライン掲示板に提出。

2. Developing an ethnographic lens: Academic life at Penn

英語のノンネイティブスピーカーとしてのアイデンティティに関する論文を2本読み、授業ではそれに関するディスカッションを行った。さらに、議論を深める良い質問とそうでない質問をグループで複数作成し、論文の著者の目的や読み手からの目的を分析し、主観的な文章と客観的な文章の差異について議論した。
ジャーナル2、3提出。ジャーナル2は、キャンパス内で自分にとってfamiliar, funny, strange な物の3枚の写真を撮り、それについて記述しオンライン掲示板にアップロードする。ジャーナル3は、課された論文の大意と目的と読み手について500語以内で記述。

3. Academic genres: Understanding text types and purposes

ジャンルや読み手や目的を明確にして書くというテーマの論文を3本読み、授業ではそれに関する講義とディスカッションを行った。
ジャーナル4提出。課された論文の最も印象的だったところとその理由を500語以内で記述。

4. Navigating the US university: Academic honesty and citation practices

引用法やパラフレーズに関する論文を4本読み、授業では引用法の講義と演習、パラフレーズや要約の演習等を行った。要約やパラフレーズ、剽窃やいわゆるコピペ等に関する試験を授業時間内に行った。
ジャーナル5提出。課された論文に関し、剽窃行為について500語以内で述べる。

5. Academic discourse communities: More than just language

アメリカの大学院博士課程における英語のノンネイティブスピーカーの経験する苦労やジレンマに関する論文を5本読み、授業では要約やパラフレーズの具体的なテクニックと英語上級者の英語力をさらにステップアップさせる指導についての講義とディスカッションを行った。
ジャーナル6提出。自由に論文を1本選択し、その論文がどのように他の論文を引用し、何のために引用しているか、その目的と論文に与える効果とを具体的に500語以内で述べる。

6. Reading and speaking strategies

英語授業におけるインタラクションと、学習者の国籍や文化背景による反応や態度の差異に関する論文を4本読み、授業では効果的なディスカッション授業にするための工夫やリーディングスキルとスピーキングスキルの統合について話し合った。
サマリーペーパー提出。課された論文を、英語教育の背景知識のない人を読み手と想定し、1枚以内に要約する。

7. Analyzing

アカデミアで必要な論文等での英語の表現とその指導、英語母語話者とそうでない者との差異等に関する論文を5本読み、授業では、客観的文章に書き直す演習や分析をしながらディスカッションを行った。
リスポンスペーパー提出。課された論文に対するリスポンスを1枚以内のアカデミックペーパーとして記述する。

8. Representing the argument clearly, fairly and accurately

Western chauvinism 西洋的価値観至上主義への批判やポリティカルコレクトネス等に関する、抽象的で遠回しな表現を用いた論文を4本読み、授業ではその文体の分析を行いながら表現の幅を広げる演習とディスカッションを行った。
ジャーナル7提出。課された3本の論文A, B, C(BはAに対する反対意見、CはBに対するさらなる反対意見の論文で、論文Aと同一著者)について、それぞれの意見と立場を要約し、どちらの意見がより妥当と考えるか、理由と共に500語以内で述べる。

9. Taking a stance

hedging ヘッヂング(ぼかし表現)に関してや、 argumentative edge をもつ、自分の意見や立場を明確に、かつ礼儀正しくきちんと表明するスキルに関する論文を5本読み、授業では与えられた文章を hedge を用いて書き直したり、 argumentative な文章に書き換えたりするグループ演習を行いながら、アカデミアで必要な表現や態度を学んだ。
ジャーナル8提出。前回の3本の論文A, B, Cに関し、どのような文体や表現を用い、効果的な論文にするためにどのようなテクニックを用いているのか分析し500語以内で述べる。

10. Writing as a collaborative process

TESOL専攻の学生の振り返り活動への抵抗に関する論文を1本読み、アナリシスペーパーを書く。授業では、アナリシスペーパーを書く際に重要な要素についてディスカッションを行い、学術論文の書き方の基盤を学んだ。
アナリシスペーパーのドラフト提出。課された論文に対しテーマを一つ設定し分析し2枚以内で述べる。私は、その論文で用いられている exploratory practice(実践研究、探求実践)の教育的意義と妥当性について述べた。

11. Constructing an argument

文化に関するステレオタイプについての論文を2本読み、授業ではその文体を分析しながら、direct でありながら respectful な言い回しに関し議論し、演習を行った。アメリカは直接的ではっきりしているというイメージがあるが、実はそうではなく、遠回しな表現を多用するし、特にアカデミアでは表現に配慮する。日常生活でも直接的な表現を避け、相手を思いやったやわらかな表現をするのは他の授業でのプラグマティクスでも学んだ通りだ。
アナリシスペーパー最終稿提出。前回のドラフトを、教育学大学院かライティングセンターのコーチとアポイントメントを取り、意見をもらった上で書き直すことが求められ、どのようなアドバイスをもらいどのように書き直したかも書いて同時に提出した。

12. Synthesizing

個人はその所属する文化に影響されるという考えの culturalism と、プラグマティクスと文化間干渉についての論文を2本読み、授業では informative synthesis と argumentative synthesis の差異と argumentative synthesis の書き方についての講義が行われ、論文に関するディスカッションも行った。
統合ペーパー(後述)のための3本目の論文タイトル提出。

13. Revision strategies: Peer writing conferences

前回の2本の論文と、自分の選んだもう1本の論文の計3本の論文を統合し、3枚以内でペーパーを書く。授業では、ピアフィードバックのやり方とポイントの講義後、クラスメイトとペーパーを交換し互いに読み合いフィードバックを与える。
統合ペーパードラフト提出。

14. Reflection

英語の授業における母語使用と、母語を使用する英語教員のジレンマに関する論文を2本読み、授業ではそれに関するディスカッションと、ライティング課題がその場で与えられ提出した。
統合ペーパー提出。私は、課題の2本の論文のテーマであるculturalism と individualism や、プラグマティクスや言語そのもののもつ特性などを考え、それらの論文の基盤となる intercultural competence(異文化間コミュニケーション能力)の定義とその評価方法に関する論文を探し、3本の論文を統合して記述した。前回のピアフィードバックで指摘されたことと、それらを取り入れたかどうかについても併せて提出が求められた。

 

英語教授法とは直接関係しないものの、西洋的価値観至上主義とポリティカルコレクトネス、文化やエスニシティへのステレオタイプなど、もともと興味のある分野であったため勉強になった。さらにアメリカ大統領選でトランプ氏の当選が決まったのと同時期だったため、ニュースや周囲で起きているさまざまな事象への理解が深まり、視点が変化したと思う。

最終成績はAをいただき、3つの授業全てでAで安心した。成績が一定以上のスコアをクリアすると、来学期に受講できる科目数が増えるのだ。Spring Term では4つ受講し、理論と実践のバランス良く科目を選択する予定だ。

写真はNYのロックフェラーセンターのツリー。ここ数年風邪など引いたこともないのに、NYに行ったら風邪を引いた。おしゃれNYは私には合わなかったらしい。

 

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