TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

フルブライトエンリッチメントセミナー その3 3〜5日目

3日目。

午前中は教育における正義について、国際的視点と国としての視点の両方をテーマとしながらのパネルディスカッション。

午後はグループに分かれ、教育機関の訪問。学校、研究機関、政府機関、民間機関のいずれかを選び訪問する。私は政府機関を選択し、U.S. Institute of Peaceを訪問した。

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平和構築を教育プログラムとして推進している機関なのだが、個人的には、平和構築をプロジェクトと考え、マネジメントしていく姿勢がアメリカらしいと思った。

その日の前日には、アメリカがシリアを空爆したという大きなニュースが入ってきていた。一緒のグループには、アフガニスタン出身の公共政策を学ぶ院生がいた。建物の内部に入る前のセキュリティチェックで並びながら彼に、「今日は、この平和機関と名乗るところに聞きたいことがたくさんあるんじゃないの?」と尋ねると、「昨日からたくさん考えた。昨日のことは…今ここでは話したくない」と答えた。

Institute of Peaceを後にする直前、その機関のプロモーションビデオ的なものを見た。戦争、紛争、教育、貧困、希望、をイメージさせるような写真と映像が代わる代わる映し出される構成なのだが、その中の1枚の写真が私の目を引いた。

Nuclear Power for Peaceと赤い文字で書かれた広告だ。第二次世界大戦直後頃の広告と思われる。それをこの「平和機関」で表示することの意図するものの意味を理解しかね、スタッフに質問をした。

アメリカの原子力政策と原発ビジネスのこと、アメリカの教育機関は原爆投下をどういった立場で教えているのかということ、この「平和機関」と名乗る機関では米軍の劣化ウラン弾も含めた核の使用及び核保有をどう見ているのかということ。

予想通り、スタッフは答えることはなかった。

 

その後グループでナショナルモール自由行動。私たちはナショナルギャラリーオブアートへ行ったが、時間が足りず残念だった。

アインシュタインの膝の上で、皆で本を読んでいるふりをしたかったのだが失敗。

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夕食はパネルディスカッションとプレゼンテーションを聞きながらの食事。教育者が教育行政と政策、実践においてどのように連携していくべきかについて。

  

4日目。教育における正義について、行政と現場をどのように融合するかパネルディスカッション。

その後専門分野のグループに分かれ、ワークショップ。私は英語教授法(TESOL)グループで、世界中からの英語教員と共に教材開発と指導案作成をした。

午後はリフレクションを行い、教育における正義について今後自分たちのできることについて全体ディスカッション。

その後は全体写真撮影の後、自由行動。私は、マイアミのオリエンテーションで知り合った、ジョージワシントン大学に通うvisiting researcherで、テクノロジーと政治学を研究するブラジル人と8か月ぶりに再会した。そして、なぜか道端で出会った彼の同級生の友人も巻き込み大勢で語り合うことになった。私は日本では通常こんなことはしないのだが、ナチュラルにそのようにしてしまったのは、ここがアメリカだからなのか、明るいラテン気質がうつったからなのか。

 

クロージングディナー会場へ移動し、代表者の力強いスピーチに感銘を受けながらさまざまな人と語り合う。90人もいると、4日間では全員の顔と名前が一致しない。各国の英語教育事情を聞き、多くの国で、英語教員が博士号を取るために3〜5年間の休職を認められていることを知って驚き、羨ましく思った。しかも在学中、給与も全額保証されるらしい。少なくとも東京都ではそのような制度はないと伝えると、世界中の人たちに逆に驚かれ、哀れまれ、英語教育に力を入れるためには教員の質を高めなければいけないのにね、と言われた。

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夜は数十人でバーへ。もはや全員入りきれていないが気にせず飲み、語る。世界中に、志を同じくしてequity warriorとして自分のフィールドでベストを尽くし続ける仲間がいるという希望と安心と連帯感が嬉しい。

バーを出た後もなんとなく離れがたく、話し足りなく、ホテルのロビーで明け方まで大勢で語り合った。世界中の明るく優秀でまっすぐな若者から、元気と勇気をもらえた気がする。自分のフィールドの中で、世界を少しだけ良くするために努力し続けようと素直に思える。

 

5日目。夕方の飛行機組はまたナショナルモールへ行ったようだが、私は朝のアムトラック。大学院の授業を休んで来ているので課題がたまっている。

 

夢のような5日間で、今でもマイアミオリエンテーション仲間とも、DCエンリッチメント仲間ともゆるやかに繋がっている。今回は、教育という軸を共通に持つ者同士で議論できたのが有意義だった。

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フルブライトエンリッチメントセミナー その2 1〜2日目

4泊5日で行われたフルブライトエンリッチメントセミナーには、50か国から90人のフルブライターが参加した。

テーマは "Educational Justice"「教育における正義」ということで、DCにあるジョージワシントン大学で開催された。

ハワイやカリフォルニアの大学院に通う人たちは飛行機での参加でアメリカ横断といった様子なのに、私はといえばフィラデルフィアからアムトラックで2時間の移動。近所でちょっぴり残念…と思いつつ、日本に置き換えれば東京−浜松くらいの距離なので、近所というほど近所でもない。しかしアメリカに住んでいるとなんだかとても近い気がする。NYに至ってはとても近所の感覚で、時期によっては往復5ドルや10ドルでフラっと遊びに行ける感覚だが、距離にすると東京−日光くらいのようだ。

 

1日目。夕方までにチェックインしたらよいのだがそこは近所というアドバンテージを活かし、お昼前に到着。夕方までたっぷり時間があるので、ナショナルモールへ行き、リンカーンに会い、ワシントンモニュメントまでひたすら歩く。

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夕方にチェックインすると、部屋にはルームメイトのスーダン人の女性。フルブライトのセミナーでは、必ず2人1部屋だ。8月のオリエンテーションではインドネシア人の女性と5日間共に過ごした。

ルームメイトの彼女は、スーダンからvisiting researcherとしてアメリカ中西部の大学院に所属している。彼女の専攻は女性の権利と教育で、スーダンではそれらを推進する機関で働いているそうだ。会うなり質問攻めにしてしまった私に、嫌な顔一つせずに丁寧に答えてくれる彼女は、聡明で言葉の一つ一つがとても落ち着いており、経験と知識に裏付けられた力強い言葉と態度が印象的で、数分話しただけですっかり感動してしまった。世界にはこんなにすごい人がいるんだなあと感じ入った。

 

2台のバスに分乗してレセプション会場へ。ジョージワシントン大学の所有するとても素敵なPost Hallにてオープニングレセプションとディナー。

Post Hall | Mount Vernon Campus Events | The George Washington University

50か国からの参加者と話しながら、自分の、世界のさまざまな国や地域への知識があまりにも乏しいことに自己嫌悪気味になりつつ、食事するのも忘れてひたすらしゃべりまくる。

8月にあった、マイアミのオリエンテーションで出会ったカンボジア人の院生と南アフリカ共和国の院生と8か月ぶりの再会を喜び合った。

ホテルへ戻り、有志20人ほどでクラブへ。ビリヤードのある奥の部屋を貸切状態にしてもらい(大勢だから隔離された模様)、ビール片手に踊り、歌い、語る、というか叫ばないと聞こえない。ラテンアメリカ出身勢がラテンミュージックをリクエストし続け、ラテンダンス講座が始まる。若者パワーに圧倒されつつ、ラティーノ、ラティーナたちのリードの元、皆でラテンダンスで盛り上がる。皆より年長の私は、初日にしてちょっとくたびれる。

 

2日目。

午前中はジョージワシントン大学の教育学大学院の学長の講演とディスカッション。

ランチは専門分野ごとのグループに分かれ、自分の考える教育と正義についてディスカッションしながら食事をすませる。

午後は2年目のフルブライターたちを招き、研究内容のポスターセッション。

その後、国会議事堂に移動しキャピトルツアー。

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ローザパークスにも会えた。他の人物が立像であるのに対し、彼女だけはバスで白人優先席から立ち上がらなかった時と同様に「座り続けて」いる。

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大雨で震えながらの移動となったが、終了後のレセプションでは虹が出ていた。

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終了後、夜はマイアミのオリエンテーションで出会った、タイ出身の医師で、ジョージタウン大学で法律を学ぶ院生が遊びに来てくれて、一緒にタイ料理を食べに行った。アメリカ各地に仲間がいる安心感。みんな頑張っているんだな、と感じることができた。

 

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フルブライトエンリッチメントセミナー その1 概要

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フルブライト奨学生に採用されると、大学院の授業料や月々の生活費等の給付といった財政的援助のほか、さまざまなネットワークの機会も与えられる。私の場合は、ペンシルベニア大学へ入学する直前の8月に、マイアミで5日間のゲートウェイオリエンテーションへの参加、そして4月にはワシントンDCで5日間のエンリッチメントセミナーへ参加する機会をいただいた。

もう2か月以上前の話になってしまったが、エンリッチメントセミナーの様子を記しておこうと思う。つい先日、今年度のフルブライト奨学生のアメリカ大使公邸への訪問の写真をfacebookで見かけ、あれから1年か、と懐かしくなり、フルブライトのことについて書いてみたくなったのだ。

 

私も1年前の今頃、キャロライン・ケネディ大使(当時)と大使公邸でお会いした際に、私の研究内容について耳を傾けて励ましてくださったことがとても嬉しかった。その後他のフルブライト奨学生たちと食事しに行き、平日にも関わらず遅くまで語り合った際、奨学生たちの優秀さ、寛容さ、傾聴力、視野の広さ、その道のプロとしての誇り、明るく前向きな態度と言葉に心底驚嘆した。多分私が最年長で、私は自分の研究というよりも、これからの若者の知的思考力、協働力、創造力を高めるために英語教育という側面からどのようにアプローチしたらよいかをいつも考えていた。そんな私の目の前にズラリと並ぶ、キラキラと眩しい若者のロールモデルたち。自分の教える生徒たちの10年後の姿と重ね合わせた。

 

8月のゲートウェイオリエンテーションでは、40か国から70人、4月のエンリッチメントセミナーでは50か国から90人の参加者と共に時を過ごした。全世界から集まるフルブライターは、やはりプラスのエネルギーに満ちあふれていた。

さらに言うと、「国の誇りと責任を持って、自分の国をどうにかするために学びに来た」という使命感をもって来ている人が多いように感じた。日本のフルブライト大学院留学プログラムでは20人ほどの奨学生がいるが、国によっては毎年1〜2名のところもあるようだ。

ちなみに先日の報道によると、アメリカのフルブライト奨学金への予算を47%削減する案が発表されたそうだ。トランプ大統領になってからの移民政策や留学生へのビザ発行など心配してきたが、やはりというか、ついにフルブライト予算もかという気持ちだ。

 

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ゲートウェイオリエンテーションでは、参加者の専攻はバラバラで、職業も大学院生もいれば、休職または退職してきた、各国の弁護士や建築士や行政官や医師やエンジニアなどバラバラであった。唯一の共通点は、70人ほぼ全員が東海岸の大学院に進学ということだった。これは、オリエンテーションがマイアミで行われたことと関係しているものと思われる。アメリカ各地で異なる日程及び日数でオリエンテーションが行われていた。中には数週間にわたるオリエンテーションだった人もいるようだ。費用はフルブライトが全額出してくれる。

これに対しエンリッチメントセミナーでは、テーマを選択できる。政治経済、テクノロジー、教育など、自分の研究や関心に沿って選択する。私は迷わず "Educational Justice"「教育における正義」を選択し、セミナー会場はワシントンDCのジョージワシントン大学と指定された。

その結果、当然のことだが、参加者は全員教育分野のフルブライターだ。私のように元英語教員で休職あるいは退職して大学院生になった人もいれば、言語学や言語教育学の大学院生、公共政策学の大学院生、教育行政官、教育普及のための機関を自ら立ち上げた人もいた。

例えば私が5日間共に過ごしたルームメイトはスーダン人で、彼女はスーダンの女性の権利や女子教育に関する機関で働いている。初日から一緒にクラブに踊りに行った女性はナミビア人で、彼女はナミビアに国立大学が1つしかなく教育の機会が乏しいことから、高校卒業後の、教育とテクノロジー職業訓練の両方を提供する機関を立ち上げようとしている。多彩な顔ぶれの中、教育の不平等や女子教育、言語習得、教育行政等について5日間たっぷり語り合った。

 

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