TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

Spring Term 大学院授業の振り返り1 教育における社会言語学

ペンシルベニア大学のTESOL専攻では修了までに12講座を履修する。春学期は4講座履修した。うち2つは必修科目であり、あとの2つは選択科目である。

必修科目の一つであるSociolinguistics in Education教育における社会言語学について振り返ろうと思う。

Week 1. 社会言語学とは何か

論文1本。社会言語学の考え方と理論のイントロダクションを行った。言語の枠組みについてグループでディスカッションののち、word webをグループで作成しプレゼンテーションを行った。

Week 2. スピーチコミュニティとは何か

論文4本、ビデオ1本。variationist, ethnographic, interactionalの3つのアプローチを基に、スピーチコミュニティを分析。HymesのSPEAKINGモデルをベースに、Setting, Participants, Ends, Act sequences, Key, Instrumentalities, Norms, Genreのそれぞれについて事例と経験を分析しグループで発表した。

Week 3. language socializationとは何か

論文4本、ビデオ1本。言語習得と言語社会化との区別をし、社会やコミュニティにおける言語獲得のメカニズムと要因について分析、ディスカッションした。Sociolinguistics Self-analysis提出。

Week 4. repertoire approachとは何か

論文5本、ビデオ1本。Rymesの論文から、repertoire approachを社会言語学の枠組みに当てはめ、crosstalkやcomembershipが生まれる条件や事例について議論した。

Week 5. 言語イデオロギーと歴史

論文4本、ビデオ1本。Native Speakerの概念、language governmentalityの概念について議論。社会制度や階層、使用言語から生まれるイデオロギーや社会構造について議論した。フィールドレポートその1提出。

Week 6. 言語イデオロギーと言語活動の関係

論文4本、ビデオ1本。さまざまなenregistermentを認め、prescriptivismを批判する立場から、vocal fryやChinglishの生まれる社会要因と結果と分析し議論した。

Week 7. 言語とアイデンティティ

論文4本、ビデオ1本。variationist, ethnographic, interactionalそれぞれの立場から見た言語とアイデンティティの関係を分析し議論。ネイション・ステートの考え方が言語学習にどのような影響を及ぼしているか議論。クィア理論、ゲイのアイデンティティと言語学習についても議論した。フィールドレポートその2提出。

Week 8. 言語的コンタクトゾーン

論文6本、ビデオ1本。translanguagingとコンタクトゾーンについて議論。

Week 9. 言語的コンタクトゾーンにおける表現

論文4本、ビデオ2本。envoicing, recontextualization, interactional, entextualizationの4つのtranslanguagingの手法を分析し議論。フィールドレポートその3提出。

Week 10. translanguagingを言語教育にどう生かすか

論文6本、ビデオ1本。生徒の言語活動の発展及び教員の指導法向上のためにtranslanguagingをどのように教室に活用するかを議論。

Week 11. language architecture

論文5本、ビデオ1本。生徒をlanguage architectureに育てるための準備と具体的な手法とその理論について議論した。translingual projectのドラフト提出。

Week 12. critical literacy

論文5本、ビデオ1本。生徒のcritical literacyを高めるためにどのように授業を運営するか議論。カンファレンスプロポーザル提出。

Week 13. reflection

これまでに学んだ社会言語学に関する概念と理論を総括し議論。translingual project提出。

Week 14. ポスター発表

カンファレンスプロポーザルをポスターとしてまとめ、出力し、ポスタープレゼンテーションを行った。

 

その他の課題

1.社会言語学自己分析

自分の言語習得および言語学習の経験について、variationist, ethnographic, interactionalの3つの観点から自己分析しレポートとして提出。

2.社会言語学フィールドレポート(3回)

授業やディスカッション、会話など言語活動の場を少なくとも3回観察、録音し、それらをアイデンティティ、governmentality, comembership, socializationなどといった社会言語学の基本概念から分析しレポートを提出。

3.カンファレンスプロポーザルとポスタープレゼンテーション

上記2のフィールドレポートを基に、自分の観察した言語活動の場で発生したことを社会言語学的に分析し、学会発表へのプロポーザルと同じ書式でプロポーザルを提出。さらにそれを基にポスター発表用のポスターを作成しプレゼンテーションを行った。

4.translingual project

自分の言語習得や言語獲得プロセスをテーマとしてtranslanguaingを用いたプロジェクトを作成。絵本、ポッドキャスト、映像、小説等書式は自由。私はパワーポイントのアニメーションを用いながら日本の短歌と英語による短歌を組み合わせた、言語習得とアイデンティティに関するプロジェクトを発表した。

5.最終プロジェクト

グループで、社会言語学の概念を組み入れた授業案と教材を作成し、その関連する理論や概念とどう繋がるかも含めレポートとして提出。私たちのグループは、プラグマティクス、language architect、socialization、アイデンティティを柱とした授業案を3つ作成した。3つの授業のテーマはsmall talk (language architect)、refusal strategies(identity and socialization)、compliment and microaggression(解釈の基準)とし、それぞれ授業案と教材を作成した。

 

 

正直に言うと、この授業は抽象度が高く苦労した。長年教員として勤めてきたため、理論そのものよりも、その理論をどのように実践に生かすかプラクティカルな方面に関心が向いてしまうのだ。

じっくりと社会言語学の理論を学べたのは大変に貴重な機会だったのだが、常に「英語の授業で実際これをどう活用するの?」「日本の高校で生かせる?」と直接的なリンクを求めてしまう。しかし履修後には、学びの本質、人間の知の営みとアイデンティティ、言語教育または教育活動すべての最終的な目標地点、といった大きな視点と枠組みを得られたと感じている。成績はA-で残念だったけれども。

 

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フルブライトエンリッチメントセミナー その3 3〜5日目

3日目。

午前中は教育における正義について、国際的視点と国としての視点の両方をテーマとしながらのパネルディスカッション。

午後はグループに分かれ、教育機関の訪問。学校、研究機関、政府機関、民間機関のいずれかを選び訪問する。私は政府機関を選択し、U.S. Institute of Peaceを訪問した。

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平和構築を教育プログラムとして推進している機関なのだが、個人的には、平和構築をプロジェクトと考え、マネジメントしていく姿勢がアメリカらしいと思った。

その日の前日には、アメリカがシリアを空爆したという大きなニュースが入ってきていた。一緒のグループには、アフガニスタン出身の公共政策を学ぶ院生がいた。建物の内部に入る前のセキュリティチェックで並びながら彼に、「今日は、この平和機関と名乗るところに聞きたいことがたくさんあるんじゃないの?」と尋ねると、「昨日からたくさん考えた。昨日のことは…今ここでは話したくない」と答えた。

Institute of Peaceを後にする直前、その機関のプロモーションビデオ的なものを見た。戦争、紛争、教育、貧困、希望、をイメージさせるような写真と映像が代わる代わる映し出される構成なのだが、その中の1枚の写真が私の目を引いた。

Nuclear Power for Peaceと赤い文字で書かれた広告だ。第二次世界大戦直後頃の広告と思われる。それをこの「平和機関」で表示することの意図するものの意味を理解しかね、スタッフに質問をした。

アメリカの原子力政策と原発ビジネスのこと、アメリカの教育機関は原爆投下をどういった立場で教えているのかということ、この「平和機関」と名乗る機関では米軍の劣化ウラン弾も含めた核の使用及び核保有をどう見ているのかということ。

予想通り、スタッフは答えることはなかった。

 

その後グループでナショナルモール自由行動。私たちはナショナルギャラリーオブアートへ行ったが、時間が足りず残念だった。

アインシュタインの膝の上で、皆で本を読んでいるふりをしたかったのだが失敗。

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夕食はパネルディスカッションとプレゼンテーションを聞きながらの食事。教育者が教育行政と政策、実践においてどのように連携していくべきかについて。

  

4日目。教育における正義について、行政と現場をどのように融合するかパネルディスカッション。

その後専門分野のグループに分かれ、ワークショップ。私は英語教授法(TESOL)グループで、世界中からの英語教員と共に教材開発と指導案作成をした。

午後はリフレクションを行い、教育における正義について今後自分たちのできることについて全体ディスカッション。

その後は全体写真撮影の後、自由行動。私は、マイアミのオリエンテーションで知り合った、ジョージワシントン大学に通うvisiting researcherで、テクノロジーと政治学を研究するブラジル人と8か月ぶりに再会した。そして、なぜか道端で出会った彼の同級生の友人も巻き込み大勢で語り合うことになった。私は日本では通常こんなことはしないのだが、ナチュラルにそのようにしてしまったのは、ここがアメリカだからなのか、明るいラテン気質がうつったからなのか。

 

クロージングディナー会場へ移動し、代表者の力強いスピーチに感銘を受けながらさまざまな人と語り合う。90人もいると、4日間では全員の顔と名前が一致しない。各国の英語教育事情を聞き、多くの国で、英語教員が博士号を取るために3〜5年間の休職を認められていることを知って驚き、羨ましく思った。しかも在学中、給与も全額保証されるらしい。少なくとも東京都ではそのような制度はないと伝えると、世界中の人たちに逆に驚かれ、哀れまれ、英語教育に力を入れるためには教員の質を高めなければいけないのにね、と言われた。

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夜は数十人でバーへ。もはや全員入りきれていないが気にせず飲み、語る。世界中に、志を同じくしてequity warriorとして自分のフィールドでベストを尽くし続ける仲間がいるという希望と安心と連帯感が嬉しい。

バーを出た後もなんとなく離れがたく、話し足りなく、ホテルのロビーで明け方まで大勢で語り合った。世界中の明るく優秀でまっすぐな若者から、元気と勇気をもらえた気がする。自分のフィールドの中で、世界を少しだけ良くするために努力し続けようと素直に思える。

 

5日目。夕方の飛行機組はまたナショナルモールへ行ったようだが、私は朝のアムトラック。大学院の授業を休んで来ているので課題がたまっている。

 

夢のような5日間で、今でもマイアミオリエンテーション仲間とも、DCエンリッチメント仲間ともゆるやかに繋がっている。今回は、教育という軸を共通に持つ者同士で議論できたのが有意義だった。

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フルブライトエンリッチメントセミナー その2 1〜2日目

4泊5日で行われたフルブライトエンリッチメントセミナーには、50か国から90人のフルブライターが参加した。

テーマは "Educational Justice"「教育における正義」ということで、DCにあるジョージワシントン大学で開催された。

ハワイやカリフォルニアの大学院に通う人たちは飛行機での参加でアメリカ横断といった様子なのに、私はといえばフィラデルフィアからアムトラックで2時間の移動。近所でちょっぴり残念…と思いつつ、日本に置き換えれば東京−浜松くらいの距離なので、近所というほど近所でもない。しかしアメリカに住んでいるとなんだかとても近い気がする。NYに至ってはとても近所の感覚で、時期によっては往復5ドルや10ドルでフラっと遊びに行ける感覚だが、距離にすると東京−日光くらいのようだ。

 

1日目。夕方までにチェックインしたらよいのだがそこは近所というアドバンテージを活かし、お昼前に到着。夕方までたっぷり時間があるので、ナショナルモールへ行き、リンカーンに会い、ワシントンモニュメントまでひたすら歩く。

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夕方にチェックインすると、部屋にはルームメイトのスーダン人の女性。フルブライトのセミナーでは、必ず2人1部屋だ。8月のオリエンテーションではインドネシア人の女性と5日間共に過ごした。

ルームメイトの彼女は、スーダンからvisiting researcherとしてアメリカ中西部の大学院に所属している。彼女の専攻は女性の権利と教育で、スーダンではそれらを推進する機関で働いているそうだ。会うなり質問攻めにしてしまった私に、嫌な顔一つせずに丁寧に答えてくれる彼女は、聡明で言葉の一つ一つがとても落ち着いており、経験と知識に裏付けられた力強い言葉と態度が印象的で、数分話しただけですっかり感動してしまった。世界にはこんなにすごい人がいるんだなあと感じ入った。

 

2台のバスに分乗してレセプション会場へ。ジョージワシントン大学の所有するとても素敵なPost Hallにてオープニングレセプションとディナー。

Post Hall | Mount Vernon Campus Events | The George Washington University

50か国からの参加者と話しながら、自分の、世界のさまざまな国や地域への知識があまりにも乏しいことに自己嫌悪気味になりつつ、食事するのも忘れてひたすらしゃべりまくる。

8月にあった、マイアミのオリエンテーションで出会ったカンボジア人の院生と南アフリカ共和国の院生と8か月ぶりの再会を喜び合った。

ホテルへ戻り、有志20人ほどでクラブへ。ビリヤードのある奥の部屋を貸切状態にしてもらい(大勢だから隔離された模様)、ビール片手に踊り、歌い、語る、というか叫ばないと聞こえない。ラテンアメリカ出身勢がラテンミュージックをリクエストし続け、ラテンダンス講座が始まる。若者パワーに圧倒されつつ、ラティーノ、ラティーナたちのリードの元、皆でラテンダンスで盛り上がる。皆より年長の私は、初日にしてちょっとくたびれる。

 

2日目。

午前中はジョージワシントン大学の教育学大学院の学長の講演とディスカッション。

ランチは専門分野ごとのグループに分かれ、自分の考える教育と正義についてディスカッションしながら食事をすませる。

午後は2年目のフルブライターたちを招き、研究内容のポスターセッション。

その後、国会議事堂に移動しキャピトルツアー。

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ローザパークスにも会えた。他の人物が立像であるのに対し、彼女だけはバスで白人優先席から立ち上がらなかった時と同様に「座り続けて」いる。

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大雨で震えながらの移動となったが、終了後のレセプションでは虹が出ていた。

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終了後、夜はマイアミのオリエンテーションで出会った、タイ出身の医師で、ジョージタウン大学で法律を学ぶ院生が遊びに来てくれて、一緒にタイ料理を食べに行った。アメリカ各地に仲間がいる安心感。みんな頑張っているんだな、と感じることができた。

 

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