TESOL@ペンシルベニア大学

University of Pennsylvania 教育学大学院へのフルブライト奨学金留学

アメリカで日本語チャット(第11回)筋を通すとは何か

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学期末の最終試験シーズン真っ只中の日本語チャットは日本語の特徴的な表現を中心に話をした。フィラデルフィアの冬の夜、しかも土砂降りの日であった。

 

1. ザーザー降りとは何か

オノマトペの豊富な日本語。日本語を母語としない人と日本語で話をしていると、「すみません、わかりません」と言われるのはいつもこれだ。いかに自分が無意識のうちにオノマトペを多用しているかに気づかされる。しかも繰り返しの表現が多い。日本で2年間英語を教えていた私の同級生でチャット仲間のアメリカ人のお気に入りは「ふわふわ」と「ヨボヨボ」だ。英語にもfluffyという語があるではないかと言うと、繰り返しが面白いらしい。「ギクシャク」とか「ガサゴソ」とか「あたふた」といった変化系はその応用だろうか。ザーザーとは擬音なのだろう。ふわふわは擬態だろう。ではヨボヨボは何なのだろうか。ちなみに英語でオノマトペはonomatopoeiaという。強勢は6音節中の第5音節にある。

 

2. 筋を通すとは何か、根回しとは何か

何気なく「それでは筋が通らないね」と発言したことから広がった話題。新年から日本企業で働くアメリカ人の生徒に、会議では「筋が通る」ように「根回し」しておくことが求められることが多い話をしながら、彼の不思議そうな表情にふと考え込んでしまった。そもそも「筋を通す」とは何なのか。アメリカ人学生の使う辞書によると「筋が通っている」とは、「論理的に首尾一貫していること」と定義されているが、人間関係や段取りの面での円滑な運用のことも指さないか。縦社会の中、波風立たせぬ人間関係を重視する文化だからこそ、「根回し」という表に出てこない事前準備を経て、組織的に「筋を通す」ことが求められる。もちろん個人レベルでも「筋の通った」考えに基づき行動することは信頼を得るのに重要な要因だ。この意味ではprincipleやphilosophyという語がしっくりくるような気がする。

 

今日はそのほかにも、「調子に乗る」や「ひと旗揚げる」などといった表現も話題になった。言葉が歴史や文化や宗教等を色濃く反映していることに改めて気がついた。

 

今日の勘違い1:

「新年を日本で迎えますか?では、初詣に行かなくてはいけませんね!」

「はつ…?(辞書で調べる)First hair growth?」

「Oh,それは発毛」

今日の勘違い2:

「ホリデイシーズンに宿泊するのはどこも高いですね!」

「ニューヨークは特に高い、しかもニューヨーク税もあるんですよ」

「入浴税?日本にも入湯税があって…」

 

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アメリカで日本語チャット(第10回)「ご縁」を説明する

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学期末を迎え最終試験に追いたてられ、冷たい雨も相俟って日本語チャットの参加者も常連のアメリカ人学生1人だけ。彼は、先日のボストンキャリアフォーラムで面接をいくつかこなした結果、年明けから日本での勤務を開始することになったとのことで、ボスキャリの報告と新生活への展望について大いに語り合った。

彼の所属する大学院のプログラムでは、12月に卒業が可能である。私の所属する教育大学院 Graduate School of Education TESOL Programは修了するために最低2年間必要で、9月に入学し卒業は5月となる。この卒業のタイミングが、日本などアジアで英語教師として働こうと考える多くの学生にとっては重要で、卒業から就職まで長期の空白期間が発生しないように作戦を立てたり、空白期間に別の機関でインターンを行ったりする学生もいるようだ。日本の多くの企業では4月採用を標準としている。5月に卒業して翌年の4月まで待てる環境ならばよいが、9月採用の希望職種に出会えるとは限らない。そのため、12月卒業の彼が11月のボスキャリで1月採用の会社に決まったことは、まさにトントン拍子というほかない。「ご縁」そのものだ。

そのアメリカ人学生に「ご縁」を説明するのに苦労した。セレンディピティみたいなものと説明したが、それとは少し違う気がする。私の印象は、セレンディピティはアクティブに自分から幸運や好ましい偶然をつかみ取っていく気づきの力で、ご縁とは人間の力を超越した、抗えない何か大きな流れのことで、今回の彼の就職活動は「ご縁」のカテゴリーに仕分けしたいと思ったのだ。なぜなら、一度も暮らしたことのない日本での生活を決めた彼に、なにかあたたかいお守りのような響きのする、「ご縁」という言葉で祝福したいと思ったからだ。

今週もおしゃべり交流会の日本語チャットであった。まさかこのチャット参加者から日本勤務の学生が誕生するとは思わなかった。独学で日本語を勉強し、話し方だけでなく態度も丁寧で礼儀正しく、人柄も素晴らしい彼を採用決定した日本企業は大正解だと思う。専門領域のエンジニアリングだけでなく、うどんも茹でるし寿司も握れる彼と夏に東京でお寿司を一緒に食べることを約束し、きっとその頃には日本語を流暢に操る日本大好き青年になっているのだろうと思い、再会が楽しみだ。

アメリカで日本語チャット(第9回)建築と起業

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今週の日本語チャットはサンクスギビング直前のため参加者が少ないながらも、上級者同士の活発なおしゃべり会になった。先週末にあったボストンキャリアフォーラムに参加した学生の報告から始まり、話題は多岐にわたった。

日本の建築デザイン事務所で働いたことのある学生の体験、建築と材料工学の関連、3Dプリンターとデザイン、韓国の若者の職業観と兵役との関連、中国の若者の職業観と大学受験、日本の若者の職業観や人生観と留学との関連等、ご近所3カ国の共通点と相違点を中心に話が弾んだ。

中でも、隈研吾氏の建築事務所でインターンとして勤務経験のある学生の話は興味深かった。隈研吾氏といえば、新国立競技場を設計した建築家ということで、私のような者でもお名前は存じ上げている。その学生のインターン時に、氏が西武鉄道の車両を丸ごとデザインしたとのことで、初耳であった。新国立競技場の木組みの設計が印象的だったので、それを尋ねると、氏はスターバックスを木組みの外観で設計したこともあるそうだ。

それにしても、日本語を母語としない学生が「木組み」と真顔で連呼するのを見ると多少の違和感と驚きを感じる。日本語母語話者である私は、木組みという言葉を人生で数えるほどしか発したことがない。その学生は建築士であるため通常の業務用語なのかもしれないが、思いがけず日本の伝統工法とその美しさや頑丈さを語り合うことになった。

3Dプリンターの発達により建築とデザインの幅が格段に広がり、独立して起業する人も増えるのではないかとのこと。その言葉を聞き日本におけるアントレプレナーシップを思った。日本でアントレプレナーシップは低迷しており、むしろ日本は改善改良、よりコンパクトでスマートに、と既存のものを磨くことで発展してきたように思う。そしてそれが日本の強みと美徳であるとも思う。しかし、新たなモノが毎日のように出現し、それがめざましいスピードで日常生活に組み込まれていく現代社会において、柔軟性と冒険心をもって世の中をリードしていくアントレプレナーが現代の日本にいたら日本はもっと面白くなりそうなのにな、とも思う。テスラのイーロンマスクはペンシルベニア大学のウォートン出身であり、その事業は自動運転車やペイパルから宇宙事業まで幅広い。しかも、そのいずれもが日常生活や現代社会に深く入り込んでいる。彼のような起業家は今後日本でも生まれるだろうか。

そんな話で45分ほど盛り上がった後、もう一人の日本語チャットファシリテーターの提案で、ミニゲームを行った。有名人の名前がポストイットに書かれてあり、それが誰なのかは自分以外の全員が知っている。そしてそれを背中に貼られ、名前を見ることはできない。その人物が誰であるのか、「はい」か「いいえ」で答えられる質問のみを周囲に尋ねることで推測する。

上級者のみだったのであっさりと正答にたどり着くことができた。質問回数を制限することで、より質問を厳選し、頭を使うことになるだろう。しかし、今回は時間制限を設け、より早く質問を考えつき正答を導き出すために多く発話することを重視した。

今週は、日本語チャットのレッスンというよりは、日本語を用いた交流会といった雰囲気で、参加者もファシリテーターも区別なくおしゃべりに熱中した。建築の話題のほか、中国で「日系女子ファッション」が流行していることについても盛り上がった。私はというと、アメリカに来てからジーンズにスニーカーにパーカーという身なりで、ヒールたこもすっかりなくなり喜んでいたが、同時に少し複雑な気分でもあった。